小祝 あおは (松本県ヶ丘高校2年・松本市)
「オバマケアめぐる議論から見える国民意識」
米上院は先月7月28日、オバマケアを限定的に廃止する法案を賛成49、反対51で否決した。民主党議員48、共和党議員52で構成される米上院。3人の共和党議員が反対票を投じた結果だった。
議決の結果によっては直に影響を受けるアメリカ国民は、オバマケアについて実際、どう思っているのか取材をした。
リチャードさん(53)は「民間医療保険に加入している者にとって、オバマケアは負担増だと感じる」と話した。
ドナさん(54)は「オバマケアの考え方はとてもいいのだけれど、制度として皆が納得できるものにはなっていない」と表情を曇らせた。
国民皆保険制度のある日本で育った私にとって、先進国アメリカでオバマケア実施後も大勢の無保険者がいるということが驚きであった。それなのになぜ、オバマケアの撤廃が議論されるのだろうか。
共同通信ニューヨーク支局長の永田正敏さんは「アメリカ国民は私的な利益を優先しがちで、皆でお金を出して助け合おうとはしない傾向がある」とアメリカの国民意識について説明してくれた。
取材を通して分かったことは、このような国民意識がオバマケアの議論の背景に根強くあることだ。「自分の人生は自分で開拓し守っていくもの」と考えるため、「皆で協力して医療や健康に関しても助け合う」という理念を持つオバマケアには違和感を抱いたり、反対したりしている人が多いということではないだろうか。しかし、アメリカ国民皆が健康で幸せに共存していくためには、私はアメリカの国民意識も変わってほしいと感じた。
「多様性に背向ける法案」
「私に与えたまえ 疲れ果て 貧しさにあえぎ 自由に生きようとする群衆を…」。この詩の一節が台座に刻まれ、アメリカの象徴とも言える自由の女神像。ニューヨーク湾の対岸から遠望できるという今月3日の朝、現地の新聞の記事が目にとまった。
合法移民を規制して10年で半減させる法案を、トランプ大統領と共和党議員が発表した。狙いは米国民の雇用確保という。私は詩との隔たりを感じ、街で声を聞いた。
公務員のロバートさん(59)は1978年にエチオピアから移民としてアメリカに来た。「より良い生活を築こうとして来る移民を能力や英語力で制限するのは正当な考えではない」と指摘した。パナマ出身の両親を持つエリザベスさん(49)は「移民を受け入れ、多様な人々の異なる意見がつくり上げた現在の多文化社会こそ、アメリカのアイデンティティーだ」。英語力を問う規制には「相互理解に必要な言語は『人の心』にこそある」と力を込めた。
トランプ大統領は多様性や寛容さといったアメリカのアイデンティティーに背を向けているように感じた。