<米国にもいじめでの不登校>
日本にはいじめが原因で不登校になる生徒が多くいる。米国も同じような状況があるのか、不登校への対応はどうしているのか取材した。
通っている(いた)学校に不登校の生徒がいるか(いたか)を17人に聞いた。このうち13人が不登校の生徒がいる(いた)と答えた。不登校の理由は、いじめが多く、貧困などの経済的理由もあるようだ。米国にも、いじめを原因とする不登校の生徒がいることを知った。
不登校の生徒をサポートするのは誰かも質問した。複数回答を含めると、「カウンセラー」が6人、「担任や養護の先生」が6人で最も多かった。「両親や家族」が3人、「ソーシャルワーカー」が1人などだった。
不登校中の生徒の勉強はどうしているのか聞くと、フロリダ州のアレックスさん(16)は「そういう子供たちが集まって補習を受けることができ、それで遅れを取り戻す」と答えてくれた。
弁護士のマイク小菅さんは「ホームスクールや夜間学校がある。試験に合格すれば、高校卒業の資格も取れる」と教えてくれた。転校しやすい環境もあるそうだ。日本では住む地域で、小中学校がほぼ決まってしまうが、米国では比較的自由に学校を選んだり、転校したりできるという。
ホームスクールや高校卒業の資格は日本にもあるが、転校しやすいという制度が印象に残った。
<子どもの学校掃除に肯定的>
社会科の教科書の中で、米国の小学生が「そうじは、担当の人がするので、私たちはしません」と答える記述があった。日本では子どもが学校掃除をすると教えたら、米国の人はどんな反応をするだろうか。16人に聞いてみたら、12人が良い制度と答え、4人が悪い制度と答えた。
良い制度と答えた人の理由は「責任感が育つ」「教室を大切にする」「掃除の方法を学べる」など、想像した通りだった。
悪い制度と答えた人の理由は「清掃員の仕事を奪ってしまう」「教室をきれいに保つのは教師の責任で、生徒にやらせるのは良くない」などで、思いがけないものだった。
全体的には肯定的な答えが多かった。普段大変だと思っていた掃除を、米国で肯定的に考えてくれる人が多く、うれしかった。これからは、そのことを意識して日々の掃除を頑張りたい。
米国で取材に応じてくださった方々は、みんなとても親切だった。いつか1人で訪れ、英語でたくさん話したいと思った。
<「相手の立場で考える」視点>
ニューヨーク日本総領事公邸で、山野内勘二総領事・大使、ジャズピアニストで作編曲家の宮嶋みぎわさんらがジョン・レノンの「イマジン」を演奏し、みんなで合唱した。「imagine all the people…(想像してごらん みんなが…)」。歌詞は易しい言葉だが、平和で人々が安心して暮らすために重要なことだと感じた。
米国取材では、国々が核兵器を持ち、けん制し合う「核の抑止力」で平和な世界をつくれるのかをテーマにした。
約20人に取材した結果、核兵器を持つことで戦争を抑えられるが、安心して暮らすことはできないという意見が多かった。核に代わる平和を保つ手段としては、コミュニケーション、相互理解、教育などが挙げられた。
広島・長崎への原爆投下については、半数以上が肯定的だった。民主党下院議員スタッフのジョン・ソーベルさんは「戦争を続けていたら、さらに多くの命が失われていた」と話した。原爆の痛みを知っている日本人からすると受け入れがたいが、アメリカ人からすると、自然な考え方のようにも思った。視点が異なれば、とらえ方も180度変わるのだと思う。
印象に残っているのは、昼食のゲストだった弁護士、マイク小菅さんの話だ。彼は「戦争になると敵国を人として見ない」と語った。確かにその通りだと思った。原爆投下に対する日米の考え方の違いも、相手の立場に立って考えていなかったからだと感じた。
私は日本が被害者のように感じていたが、戦時中は日本も多くの人々を殺し、傷つけたという事実を忘れてはならないと思う。互いを思いやり、共に平和な世界をつくっていく姿勢を国民一人一人が持つ必要があると思う。
<米中貿易摩擦の取材難しく>
私はアメリカで、核問題の取材と一緒に、最近激しさを増している米中貿易摩擦について取材した。貿易摩擦については、あまり上手にまとめることができなかった。
貿易摩擦のインタビューでは、「中国の方が悪い」というアメリカ寄りの考えや、「互いの主張を分かり合い、フェアな貿易をしてほしい」などの抽象的な意見が多いように感じた。
核問題では、日本とアメリカという立場があり、インタビューの答えからアメリカの立場、私の今までの経験から日本の立場を考え、比較することができた。
貿易摩擦という問題はアメリカと中国という2国の立場がある。インタビューでアメリカの考え方が分かったが、中国の考え方が調べられなかったので、対比してまとめることができなかった。
何か調べる時は、どちらかに偏った意見しか得られないと、うまくまとめることができない。幅広く多くの視点から意見を集めることが大切なのだと感じた。
<「米国は男女平等?」意外な返答>
「米国では男女が平等だと思いますか」という質問を25人にした。グローバルな米国なら、ほとんどの人が「平等だ」と答えると思っていたのに「まだだと感じる」と、はっきり答える人が自分の予想を上回る8人もいた。これまで先入観を抱いていたことに気付いた。
ニューヨークで取材した会社事務職の女性(50)は「自分の職場では進んでいると感じるが、社会全体としてはまだまだだと思う。男性に比べ、賃金の低さ、就ける仕事の幅、偏見などがある」と答えてくれた。
「平等だ」と答えた人の理由にも、疑問を感じた。何人かは、仕事があり、車が運転でき、普通に生活できているから―と答えた。当たり前の生活ができるだけで女性の権利が守られているというのは、現代としては少し違うのではないかと感じた。
英国からの男性観光客(29)は「給料の低さなど、女性の権利を向上させるために、もっと主張しなければいけない。偏見も無くさなくては」と話した。女性首相が誕生している英国でさえ、女性の権利が十分でないと考える人がいることを知り、古い価値観を変える難しさを感じた。
日本で取材の準備をした時は、米国と日本の相違点を見つけようとしていた。実際に米国で取材すると、日本と同じように女性の権利の向上を指摘する声が目立ち、米国を身近に感じた。実際に自分で見たものや、取材した人の話は、私が事前にイメージしたものとは、かなり違っていた。何が本当で何がうそか。自分自身が実際に触れて感じ、考え、判断していくことが大切だと思った。もっといろいろな所に行って、とにかくたくさん吸収したい。
<伝えることの大切さを知る>
米国取材の最終日にジャズピアニストで作編曲家の宮嶋みぎわさんの講演を聴いた。自分が決めたことや進む道への迷いがないと自信を持って語る姿は、偉そうに感じさせず、付いていきたいと思わせるリーダーだと思った。体の真ん中に、自分はこうしたいという揺るぎないしっかりしたものがあって、初めてこんな大人になりたいと思った。
「私はどう思うのか」。毎日のまとめを通してたくさん考えた。今まで自分の意見を伝えることを、きっと伝わらないだろうな、とあきらめていた。でも、まずは伝えようとしなくては始まらないと思うようになった。今の私が考えていることを言葉にすることで、私の考えはまとまり、よりしっかりしたものになっていく。伝えることの大切さを知った。
世界を相手に頑張っている人達の話を聞いて、少し見えてきたかなえたい夢、そして未来を実現できるように、私の人生を自分できちんと設計していこうと思った。この1週間の旅は一生忘れられない人生の宝物だ。
<環境問題 意識の高さ感じた>
環境問題に対して、米国で暮らす人々がどんな「意識」を持ち、どんな「行動」をしているかを取材した。質問した18人中、16人が環境を考えて何らかの行動をしていた。
複数回答を含めると、具体的な行動では「リサイクル品を使う」と「使い捨てプラスチック製品を使わない」がそれぞれ10人で、最も多かった。「車をなるべく使わない」「オーガニック製品を使う」などの回答も目立った。
「僕は牛肉をここ1年間食べていない」と熱心に語ったのは共同通信ワシントン支局助手のブレンダン・ケリーさん。重さ1キロの牛肉を育てるのに、車で100キロの距離を走るのとほぼ同じ量の温室効果ガスを排出する―という試算があることを教えてくれた。
ペンシルベニア州の主婦、ジョイさん(35)は、使い捨てプラスチック製品について「以前より手に入りにくくなってきているから、使わない人が多いのではないか」と答えた。社会の流れで、提供しない店が増えてきていると指摘した。
ニューヨーク州は、来年3月からプラスチック製のレジ袋を禁止する法律を定めた。米国滞在中、多くの場所で買い物をしたが、紙袋しかもらわなかったことを思い出した。
環境問題への意識では、別の側面もあるようだ。共同通信ニューヨーク支局の記者、古瀬敬之さんは「日本にいた時よりも電気や水をたくさん使ってしまう」と話してくれた。
米国は資源が豊富なため、光熱費が安い。そのため、資源の節約を意識しない人が多いのだという。僕の取材でも、環境を考えた行動として、節電や節水を挙げた人は一人もいなかった。
取材全体としては、質問内容以上に熱心に語ってくれる人が多く、環境問題に対する意識の高さを感じた。
<取材テーマや質問 準備不足>
5層からなる船に数百人があおむけで積まれていた。一層の高さは1㍍にも満たない。国立アフリカ系米国人歴史文化博物館に奴隷船の模型が置かれていた。かつては、このようにアフリカの人たちが奴隷としてアメリカに運ばれていた。奴隷制がひどいものだとは知っていたが、こんなにもむごい扱いを受けていたとは想像もできなかった。
もちろん僕たちが見たものはこれだけではない。僕たちは今回のアメリカ派遣でたくさんのことを見て学んだ。失敗から学んだこともあった。
僕たち学生記者は二つ取材テーマを決め、それを取材する。僕のテーマは「環境問題に対する意識」と「スマホの利用の仕方」だ。前者の取材は順調に進み、いい記事が書けた一方で、後者の取材は満足にできなかった。
取材を始めたのはワシントンDCのリンカーン記念堂前だった。環境問題に対する意識の取材と並行して、スマホについて取材を進めた。リンカーン記念堂、スミソニアン博物館、国立アフリカ系アメリカ人博物館…。順調に取材が進んでいた3日目の夜、その結果をまとめるのが難しいことに気づいた。
「1日にどのくらいスマホを利用していますか」「スマホ上で、主に何をしていますか」など、幅広く質問していた。答えがさまざまで、多くの人に取材しないと、何らかの傾向をまとめにくいものばかりだった。
渡米前にテーマや質問を吟味していれば気づけたことだった。おそらく二度と経験できない貴重な機会での準備不足で、後悔しかない。この失敗を教訓として、今後に生かしていきたい。
<ネット通じ情報得る人多く>
米国で20人に普段は情報をどこから得ているか質問した。複数回答を含めて、インターネット14人、テレビ6人、新聞3人、ラジオ1人、雑誌1人の結果だった。インターネットと答えた人の中でも5人は新聞の電子版だった。インターネットを通じて情報を得ている人が多かった。
ノースカロライナ州から来たライアンさん(18)は「スマホでニュースを見たり聞いたりもできる。もう紙の新聞はいらないと思う」と話した。
ワシントンDCの報道博物館「NEWSEUM」の学芸員、ジェイソンさん(25)は「インターネットにはうその情報がある。私は米紙ワシントン・ポストを信頼しています」と答えてくれた。
最も信頼するメディアは何かも聞いてみた。医師のトンプソンさん(30)は「しっかりとした記者が書いているツイッターの記事が一番」。法律関係の仕事をしているスザンヌさん(61)は「ない。たくさんのメディアから判断するべきだ」、大学生のピエトロさん(20)は「テレビ局などのオフィシャルサイトを信用すべきだ」。さまざまな答えが返ってきた。
私は毎朝、登校前に新聞を読む。家にテレビやラジオもあるが、一番多くの情報を得て、最も信頼しているのは新聞だ。一方、まだ持ってはいないが、スマホにも大いに興味がある。インターネットで多くの情報が瞬時に手に入るのは、とても魅力的だ。
ネット情報の中には真偽が分からないものもあるかもしれない。米国取材で聞いたように、複数のメディアを比べたり、信頼のおけるサイトや筆者かどうかを確認したりして、情報を見極める自分の基準をしっかり持ちたいと思う。
<背中を押してくれた出会い>
僕は最初、本当にアメリカに行って、外国人に取材をして記事を書けるのかと不安に思っていた。そんな僕をこの事業に参加してよかったと思わせてくれたのは、ニューヨークでのデイビスさん(80)との出会いだ。
環境問題について、「僕たちに何ができるでしょうか」と聞いたとき、彼は、「私たちにはまだまだ知らないことがある。君みたいに、そのことに興味を持って、それを報道するのが一番だと思うよ。」と丁寧に答えてくれた。僕らの取り組みに大きな価値を見出してくれる人にめぐりあえた。
アメリカで知らない人に声をかけ、しかも英語で話すのは、とても勇気のいる事だった。時には、僕が声をかけて断られたのに、ほかの人が取材を申し込んだらすんなりOKされたこともあった。その中でデイビスさんは、僕の背中を押してくれた。
1週間の滞在中、心細いこともあった。しかし、いろいろな年齢、職業の人に話を聞くことができたのはいい経験だった。僕らを応援してくれる人が世界にいることも大きな自信となっている。本当に素晴らしい取材旅行だった。
<インスタ映え人気 日本同様>
日本では、タピオカが大流行している。私が住む上田市でも、休日となればタピオカ屋さんは大行列だ。お店の前では、多くの人がインスタ映えを目的に写真を撮っている。私もタピオカの写真を撮ったり、飲んだりすることに夢中だ。米国の若者も日本と同じようにインスタ映えを狙って食べ物の写真を撮っているのか、どんな食べ物が流行しているのか取材した。
ワシントンDCのリンカーン記念堂近くで質問した16歳女子は「ボバティーが大好き」と答えた。ボバティーはタピオカの粒が入った飲み物。インスタグラムに写真を撮ってよく掲載するそうだ。
同じく地元の10代男子グループ7人に聞くと、分からないと首をかしげていた。男子はあまり、インスタ映えに興味がないようだった。
ワシントンDC近くのアーリントンで交流した15歳女子2人は「ギャラクシーケーキ」と答えた。表面に銀河が描かれており、とてもおいしいというわけではないが、インスタ映えを目的に食べると話していた。
このほか「ジオードケーキ」「たい焼きアイス」が挙がった。聞いたことがなかったので帰国後に調べた。ジオードケーキは砂糖やあめで水晶を再現したケーキで、とても美しい。たい焼きアイスは、たい焼きがアイスクリームを飲み込んでいるような形をしていて、ニューヨーク生まれらしい。どちらもおいしそうだ。
日本と同様、米国の10代女子にもインスタ映えする食べ物が人気だと知って、親しみを感じた。買い物で母と東京へ行くことがある。次に行くときは、これらの食べ物を探して味わってみたい。
<多様な人種 受け入れる社会>
私が米国の街を歩いていると、肌の色や目の色が異なる人がたくさんいた。日本では日本人がほとんどで、外国人がいると、特別な目で見てしまいがちだ。米国に住む人々は、さまざまな人種の人と暮らすことを、どのように思っているのだろうか。7人に聞いてみた。
スペイン出身の47歳男性は、いろいろな人種の人と生活することはすごくいいと思うと話した。ニュージャージー州の71歳夫婦は、いろいろな人種の人がいるからこそのアメリカだと答えていた。自分では、人種や文化が違うと、一緒に生活するのは難しくて大変な面もあるのではないかと思っていた。取材では、そういう声は聞かずにびっくりした。
アメリカに住む人々は、いろいろな人種の人と暮らすことが当たり前のようだ。私もいろいろな人と関わり、互いに尊重し合い、多様性を受け入れて生きていきたい。
<「SDGs」もっと学ぶ機会を>
「あなたはSDGsを知っていますか?」
「SDGs」は2015年に国連が制定した持続可能な開発目標のことだ。貧困、教育、経済成長など、世界が抱える17の問題を掲げ、解決のための169のターゲット(具体的目標)を示している。
僕はアメリカで30人近くに冒頭の質問をし、さらに環境問題への意識も聞いてみた。SDGsを知っていたのはアメリカ人大学生2人とイタリア人高校生6人。質問した10代から大学生までの10人では、8人が知っていたことになる。それより上の世代は、だれも知らなかった。
イタリア人の高校生ニコロさん(16)は「高校では月に2回環境に関する授業があり、SDGsも学ぶ」と話した。アメリカ人大学生の2人は、高校時代にSDGsの授業があり、1人は通っている大学の授業でも学んだという。
3人はSDGsの目標やターゲットなどをよく知り、当たり前のように話していた。環境問題への意識も高くて驚いた。
僕自身は一般的な環境問題に関する授業を何回か受けた程度で、新聞記事を見るまでSDGsの存在すら知らなかった。日本にもSDGsの授業を行う学校はあるが、まだ多くないのではないか。僕の周辺ではSDGsはあまり知られていない。環境問題を考える最初の一歩として、SDGsを学ぶ機会が日本でも増えればいいと思う。
取材では、SDGsを知っているのは若者だけだった。もちろんSDGsを知っているだけでは、環境問題は解決しない。一人一人の力は小さくても、世界中の若者が力を合わせて行動すれば、この地球を変えることもできるのではないかと強く思った。世界が変われるかは、これからの僕たちの行動次第だろう。
<「移民の国」取材を通じて実感>
英語で話しかけても必ずしも英語で答えが返ってくるとは限らない。日本での事前学習会で中高生記者の先輩から聞いていた。アメリカでの取材では、予想以上にそのケースが多くて驚いた。
考えてみれば、取材した相手の年齢、性別、肌の色、宗教などがみんな異なるのだから、それも全く不思議ではない。アメリカが移民の国であることを強く実感した。さまざまな国の文化や考え方があり、一つの考えに縛られない国であるからこそ、成長し続けることができるのだと思った。
世界の距離がどんどん近くなっている今、日本でいろいろな国籍の人と仕事をしたり、海外で世界中の人と働いていたりと、自分の将来がどうなっているか想像がつかない。これからの変化していく社会を生き抜くためにも、語学力を磨き、自分の専門分野を持ってアメリカ以外の国にもどんどん飛び出していきたい。
<医療現場に笑顔望む 印象的>
私は救命医を目指しており、医療に関心がある。アメリカでは「病院で受診して良いことや不満なことがあったか」と聞いてみた。
イリノイ州から来たジェンさん(49)は「夫の手術をしてもらった病院の医師や看護師の対応がとても良かった」と笑顔で話してくれた。私の夢を話すと、「あなたが目指すような先生のおかげで、夫は今もこんなに元気でいられる。あなたも頑張って」とエールをもらった。隣にいた夫の笑顔が印象的で、そんなふうに人の命を救える医師になりたいと強く感じた。
テキサス州から来たベンさん(39)は「娘と息子の出産時に医師の対応が良かった」と答えた。年に1度受診する小児科医の対応がとても良いと話しながら、娘のケイティーちゃん(5)にほほ笑んだ。
医師や看護師に望むことは何かと質問すると、クリスタさん(39)は「とにかく笑顔で接してほしい」と答えた。
取材では、医師や看護師に対して好印象な人が多く、不満は聞けなかった。世界の最先端医療技術を誇るアメリカで、医療スタッフに望むものは笑顔だという答えが印象的だった。
病院で私が思い出すのは、かぜをひいて受診した小学4年生の時だ。病気の説明など、医師にもう少し笑顔で優しく言ってほしかった記憶がある。
医師や看護師に求めるものは、アメリカも日本も同様なのではないかと感じた。将来、救命医になれたら、医者としてだけでなく、笑顔を忘れずに、一人の人間として患者と接したい。アメリカで医療を学ぶのもいいかもしれない、と目標が一つ増えた。
<お菓子の好み 日米変わらず>
私は甘いものが好きだ。日本とアメリカで好きなお菓子に違いはあるのか知りたくて取材した。
「どういうお菓子が好きですか」。7、8歳の子どもから77歳の夫婦まで計8人に質問した。ポテトチップス、ポップコーン、アイスクリームという声が多かった。
アメリカでポピュラーなお菓子は何かという質問に対しては、ポテトチップスという声が多かった。スーパーに行くと、これらのお菓子は、たくさんの品ぞろえがあった。
取材して気付いたことが二つある。一つ目は日本と同じように、アイスクリームやポテトチップスは人気があり、たくさんの種類やメーカーがあること。ただ、店の棚に並ぶ袋や箱のサイズは日本と比べ、大きかった。アメリカのレギュラーサイズは、日本のビッグサイズといった印象だ。
二つ目は、年齢層が異なるにもかかわらず、好きなお菓子はみんな同じという点だ。77歳の夫婦も、ポテトチップス、ポップコーン、アイスクリームが好きだと答えてくれた。子どもからお年寄りまで好みの味は変わらないようだ。
アメリカの人々は笑顔で、私の拙い英語の質問の意図をくみ取り、答えてくれた。異国の地で、たくさんの出会いと、発見と、将来の目標ができた。目標を達成したら、もう一度ここを訪ねよう。また一つ目標ができた。有意義な8日間だった。
<情報見極める力付ける必要>
「普段どうやって情報を取得していますか」と米国で17人に質問した。インターネットと答えたのは13人、テレビ2人、ラジオ1人、新聞1人だった。
インターネットの13人に「その情報を信用できますか」と聞いてみた。「はい」と答えた人は1人だけで、「いいえ」が3人。「信用できたり信用できなかったりする」が9人だった。
インターネットで情報を取得する人は多いのに、完全には信用していないという結果だった。私はスマホもパソコンも使っていないので、インターネットのことはあまり分からないが、この結果に少し驚いた。
新聞で情報を取得すると答えたニューヨークの20代女性サラさんは「印刷されている方が読みやすい」「たくさんの情報が載っていて、一気にニュースが分かる」と答えた。
ニューヨークの移民博物館スタッフのダイアナさん(47)は「インターネットで新聞記事を読む」と答えてくれた。インターネットで取得する情報の中では、新聞記事が信用できると話した。
私は中学1年の夏から新聞を読み始め、今は1日に2回、朝と夕方に読んでいる。私もサラさんと同じように、紙に印刷されている方が信用できると感じている。
さまざまなメディアを通じて流れてくる情報に対し、信頼できるかどうか、自分で見極める力を付けることが必要だと思う。
<地球環境考えた行動に驚き>
「言葉より行動を」
ワシントンの昼食でゲストだった大学生アクセルさんの言葉だ。地球には、さまざまな環境問題がある。アクセルさんはリサイクルしやすいように空き缶の分別をしたり、公共交通機関を使うようにしたりして、環境に優しい行動を心掛けているという。
ニューヨークで質問した女性2人組のポーラさん(ルイジアナ州)、アリソンさん(カナダ)は牛肉を食べないようにしていると教えてくれた。牛を飼うことで二酸化炭素やメタンガスが増えてしまうという。そのために牛を食べない取り組みをしているそうだ。そんな考え方を初めて聞いて、とても驚いた。
地球温暖化を信じないという人もいた。「50年前と同じことが繰り返されているだけだ」。そう答えた人もいた。いろいろな考え方があることを改めて感じた。
この派遣中、私はたくさんの人に会った。中には仕事の合間に答えてくださった人もいた。取材を受けてくれた人たちに感謝したい。
<自分で大学費用貯金 刺激に>
自分の夢をかなえるためにはさまざまな選択肢がある。アメリカでも日本でも、そのために大学進学という選択肢を選ぶ人が多くいると思う。私もその一人だ。しかし、進学には金銭的に大きな負担がかかる。学費問題について、アメリカで若者中心に取材した。
アイオワ州の高校生グループ7人に聞いた。モンタノさん(17)は「アルバイトを掛け持ちしていて、勉強との両立は大変。でも両立させないと大学の学費に充てられなくなってしまう」と答えた。
ハナさん(16)は「将来は獣医師になりたい。大学に長く通う必要があるので、お金をためて早め早めに行動しなければ」と話していた。7人のうち6人はアルバイトをしていて、大学に入る前にお金をためることが必要だと、口をそろえて話した。
高校生グループの仲間のジョンさん(23)は大学を卒業したばかりで、就職先が決まっていないという。10年間の学生ローンで学費を借りた。金額は教えてもらえなかったが、返済できるか心配だと答えてくれた。
日本では生活費以外に、趣味娯楽や社会勉強の目的でアルバイトする学生が多いと思う。アメリカの高校生は進学のために貯金しようと努力し、将来に向けて自立した行動をしていた。想像もしていなかったことで、大変驚いた。
私は親から仕送りしてもらって大学に通うことが当たり前だと思っていたが、アメリカでは違った。質問した高校生の話はとても刺激になった。決して簡単ではないと思うが、夢をかなえるための努力は勉強だけではないと学んだ。できる範囲で自立することを目指し、夢に向かって努力したいと感じた。
<高齢者運転 考え直した取材>
日本では高齢ドライバーによる悲惨な事故が社会問題となっている。私の祖父母も70歳を超えたが、2人とも運転している。アメリカでも同じように社会問題になっているのか取材したいと思った。
ワシントンDC郊外の国立航空宇宙博物館別館を訪れていた70代のギルさんは「俺はまだ元気だ。これからも運転していくよ。運転しても悪いことはない。自由だから」と話した。質問した数人の70代は全員が運転し、「ゆっくり気をつけて運転している」と答えてくれた。
取材するうちに、高齢者だから事故を起こしやすいと、一方的に考えて質問することは、失礼になるのではないかと考え始めた。取材サポートをしてくれた現地ガイドのなおみさんに相談した。
なおみさんは「この問題は質問の仕方を慎重にした方がいい」と教えてくれた。多くの人種が暮らし、多様な文化を受け入れているアメリカでは、年齢や性別でひとくくりにして問題を考えることは少ないという。確かにその通りで、このまま取材することは難しいと考えた。
テーマからはずれてしまったが、この質問を通じ文化や考え方の違いを肌で感じ、自分の考え方も幅が広がった。
田舎では車がなければ買い物や病院に行くことは難しい。自分としてはこの問題に対して自動運転の開発や公共交通機関の発達が進めば、解決につながると思う。
<銃社会…厳しい所持品検査>
ワシントンDCに到着した7月28日、カリフォルニア州で3人が犠牲になる銃乱射事件があって驚いた。米国では銃乱射事件で、多くの命が失われている。銃規制の賛否について18人に聞いた。銃規制に賛成が14人、反対が1人、どちらとも言えないが3人だった。
フロリダ州に住むグレッグさん(57)は米陸軍で働いていた経験から「一般市民が銃を持つことには反対だ」と答えた。軍では、銃の取り扱いや使う場面を想定した訓練をする。「厳しい訓練を積んだ人が銃を使うべきで、市民の悪用はあってはならない」と話す。
米議会下院管理委員会スタッフのジェン・ドールビーさんは「地方では警官が来るのに時間がかかる。自衛のために銃は必要だと思う。でも中学生の母親として、学校で銃乱射事件が起きると胸が痛む。一概に規制の賛否は言えない」と複雑な思いを話した。
銃規制に反対したマークさん(49)の職業はハンター。「合衆国憲法で銃所持は認められている。銃がなければ仕事も生活も成り立たない」と言う。「建国の歴史から考えると、規制は不可能ではないか。銃を悪用する人が悪い」と訴えた。
自分の取材では、銃規制について賛成する人が多数だったが、米国ではなかなか規制が進まないのが現状だ。「市民の銃所持は憲法が保障している権利」という考え方が根深いのだと思う。
米国で公共施設に入る時にはいつも、所持品を検査したり、ゲートをくぐったりする厳しいチェックがあった。銃の危険と隣り合わせで暮らす米国に比べ、銃が規制されている日本は安心して生活できる、と改めて実感した。
<「静かないじめ」広がるとの声>
アメリカでいじめの問題を取材した。アメリカにもいじめがあり、最近はSNS(会員制交流サイト)を通じた「静かないじめ」が増えているようだと知った。
マサチューセッツ州の小学校教師、ブリッドリーさん(27)はアフリカ系米国人。学生時代に髪と肌のことでいじめられたという。「自分に自信があったので、聞こえないふりをして過ごした。今は学校でいじめを見たら、その場で止めてすぐに話し合い、解決することが学校のルールになっている」と話した。
ワシントンDC在住で社会人1年目のマイルズ・モナコさん(21)は「高校生の弟がいじめにあっている。学校に対応を頼んだが、どうしようもできないと言われ、怒りが止まらない」と教えてくれた。
ワシントンDCの小学校の体育教師、マイクさん(44)は「この5、6年でいじめは深刻な問題となっている。昔は暴力によるいじめが中心だった。今はスマホの普及で、SNSを通じた静かないじめが多くなっている」という。
SNSを使ったいじめは、日本でも増えていると聞く。この問題に対しては、教師だけでなく、社会全体で考えることが必要だ。
<好物のあんこ 知名度は低く>
私は「あんこ」が好きで、ほぼ毎日あんこを使ったスイーツを食べている。今年3月に3週間、語学研修でオーストラリアに行った時、たくさんスイーツを食べた。でも、あんこを使ったものはなく、存在すら知られていなかった。和食が人気の米国の現状はどうか知りたかった。13人にあんこを知っているか質問したところ、知っているのは2人だけという残念な結果だった。
2人のうち1人は、日本とイタリアのハーフの方。もう1人は同世代との交流会で質問した米国の高校生ソフィア・フィールドさん(18)。「食べたことはあるけど、好きじゃない」との答えだった。食べたらおいしいと思うのに、なぜだろう。その背景には食文化の違いもあるようだ。
国立航空宇宙博物館別館で女性スタッフのボニーさん(83)にあんこの説明をしたら「米国では豆に砂糖を加える文化はあまりない」と教えてくれた。豆をつぶすこともほとんどしないようだ。ほかに、小豆は知っているが、スペイン系料理やスープの具として使っていると答えた人もいた。
共同通信ニューヨーク支局の記者、本蔵一茂さんは面白い話を教えてくれた。取材相手などをたまに連れて行く高級すし店では、デザートとして抹茶アイスと、小豆アイスが提供されているという。
2009年に当時のオバマ米大統領が初来日した際、少年時代に抹茶アイスが好きだったエピソードを紹介した。それをきっかけに全米に抹茶アイスが広がった。ところが、そのすし店では今、抹茶アイスより、小豆アイスを選ぶ人が目立つという。ニューヨークで小豆アイスが頑張っていることを知った。あんこが全米に広がるのも、そう遠くないかもしれない。
<有権者登録の意識高い若者>
日本では18歳になると選挙権が与えられる。米国でも18歳で選挙権を得るが、すぐ投票できるわけではない。自分で有権者登録をしなければ投票できない制度だ。日本では若者の投票率の低さなどが指摘されている。米国の若者はどのくらい有権者登録しているのか取材した。
13人に質問し、18歳以上の4人が有権者登録をしていた。17歳以下の9人全員も選挙権を得たら有権者登録するつもりだと答えてくれた。
アーリントンの高校生ソフィア・フィールドさん(18)は「ほとんどの人が有権者登録する。しない人の方が少ない」と教えてくれた。
「自分の声を自由に出すことは普通のこと。そこに誰も疑問を持たない」とアーリントンの中学生サノナナミさん(12)は答えた。自分も18歳になったら、有権者登録するつもりだと言う。
有権者登録をした人が必ず投票するとは限らない。しかし、国を変える一つの手段として選挙をとらえ、自分の考えを持っている同世代に驚いた。自分も有権者になったら投票に行きたいと思う。
<LGBT認め合える寛大さ>
私にはゲイの友人がいる。彼に打ち明けられるまで、私はLGBT(性的少数者)について関心を持っていなかった。今回の取材では、アメリカ人や欧州からの観光客にLGBTについてどう思うか聞いてみた。
インディアナ州に住むポールさんは「LGBTの人々は特別な存在ではなく、不平等な扱いをするべきではない。彼らに見合った法律や制度を整えるべきだ」という。同じような答えが多かった。
LGBTの中で、同性愛に否定的だった人は宗教上の理由からだった。ミズーリ州のルイスさんは「私は聖書を信じている。だから同性愛は認められない」と答えた。聖書を解説した本を指さしながら「私の主張は全てここに書かれている」と説明してくれた。取材を通じ、アメリカ国内でも対極的な考えがあると感じた。
米連邦最高裁は2015年に、法の下の平等を保障する合衆国憲法を根拠に同性婚を認める判決を出した。このように、日本でもLGBTを認める法律や制度を整えていくべきだと思う。
取材中、ニューヨーク州のジェーンさんに「あなたの友達にLGBTは何人いるの?」と聞かれた。私の知るLGBTは前述の友人だけである。ジェーンさんの職場(IT関係)では、多くの社員がLGBTをオープンにしているそうだ。ジェーンさんは「私は呼吸をするように、LGBTを無意識で受け入れている」と続けた。
私は日本の社会にもこのような寛大さが必要だと思う。「マジョリティー(多数者)」と「マイノリティー(少数者)」が互いに認め合える職場環境があること。アメリカのストロングポイントの一面を見たと実感した。
<過去を学び未来を想像する>
歴史に「もしも」は存在しないと言われる。しかし、もしもアメリカが原爆を投下しなければ、エノラ・ゲイが歴史的な航空機として展示される事もなかった。もしも2001年の米中枢同時テロでワシントンDCが攻撃されていたとすれば、派遣中に見た景色はなかっただろう。実際に現地を訪問し、そのような感情がふつふつと湧き上がってきた。「もしも、こうなっていたら」という視点から、過去の歴史を想像してみる事は大切だと思う。
私たちが歴史を学ぶとき、それらは既成事実として理路整然と語られる。それはあたかも起こるべくして起こったと言わんばかりに因果関係に基づいている。しかし、歴史はそう単純ではない。2016年のアメリカ大統領選挙で、トランプ氏が勝利した。選挙期間中、対立候補のクリントン氏が優勢と見られていたが、結果は違った。
共同通信ニューヨーク支局の記者、本蔵一茂さんは「メディアもトランプ大統領が誕生するとは予想できなかった」と言う。当時は多くの国民がこの結果を予想できなかった。「まさか起きないだろう」という出来事が現実となったのだ。
これは米中枢同時テロにも言える。9・11メモリアルミュージアムには「あの日の朝が、夫との永遠の別れとなった」「いつも通りに帰ってくると思っていた」と犠牲者遺族の言葉が残されていた。まさか飛行機がハイジャックされ、まさかワールドトレードセンターが攻撃されるとは誰一人として夢にも思わなかった。ある一瞬を境に日常が奪われたのだ。
冒頭で「もしも」の視点から過去の歴史を想像する事は大切だと書いた。それは、現実とならなかった歴史を想像する事で、現実では考えられなかった未来の事象を想像する事が可能だと感じるからである。過去の歴史を学ぶだけではなく、過去から未来を想像していく事も大切にしていきたいと学生記者派遣を通じて強く思った。
<立って作業の机 広がる理解>
スタンディングデスクは高さを自由に調節でき、立ったまま作業ができる机だ。高校1年の時、探究学習のテーマに選び、米国で流行していることなどを調べた。今回実際に米国で取材した20人のうち13人がスタンディングデスクを知っていると答えた。予想より多くの人が知っていた。
ニューヨーク州出身のスカイさん(31)は小学校で使っていたという。オハイオ州の会社員、アマンダさん(32)は今のオフィスで使っていると答えた。スタンディングデスクについて、多くの人は「健康的になる」「座りすぎは体に良くない」と話した。
探究学習で、シドニー大学(オーストラリア)が2011年に発表した研究を調べた。世界20カ国の中で、1日の平均座位時間は日本が最長だったという。別の研究では、座りすぎは健康に悪影響があるとの指摘もある。日本の現状改善のために、スタンディングデスクを使って意識的に立ち上がることが大事ではないだろうか。でも、会社などで、いきなりスタンディングデスクを導入することはなかなか難しい。
ミネソタ州の会社員、マイクさん(49)は、オフィスにスタンディングデスクがあるが、立ったままの仕事は好きではないので使っていないそうだ。「数十分に一度立ち上がって、ストレッチしたり体を動かしたりしている」と教えてくれた。このような試みが、日本の座りすぎ解消の第一歩にもなりそうだ。
新しいものをどんどん取り入れて、効率を重視するアメリカだからこそ、スタンディングデスクが普及しているのではないかと感じた。
<食べきれない米国の食事量>
「食べ残して当たり前」というようなアメリカの食事量に、小さい頃から「もったいない」という考えを教わってきた私は衝撃を受けた。私がアメリカ滞在中の計17回の食事で食べきれたのは、わずか5回だった。
ニューヨーク州の女性レイチャルさん(29)は「アメリカンフードの量は多いと思うし、食べきれない」と答えた。レストランで出される1人分の量を多いと感じるアメリカ人は少なくないようだ。
世界では飢餓で苦しんでいる人がたくさんいる。これを解決するためには、食料廃棄量を少しでも減らすことが私たちにできることではないだろうか。
昼食時のゲストだった国連職員のステファニーさんに「こんなにフードロスがあるのに飢餓を解決できるのか」と質問した。彼女は「飢餓は気候変動が大きく関係しているから、先進国が農業技術などを教えていくことが大事」と答えた。それも大事なことだが、日本の「もったいない精神」を広めれば、飢餓の解決につながるのではないかと思った。
<「エノラ・ゲイは英雄」思い複雑>
原爆投下に対する日米の認識の違いを取材した。未来を担う若者が、戦争について多くのことを知り、学び、考え、次世代へ伝えていくことが何より重要だと実感した。
中学2年生のとき、平和学習で広島県を訪れた。被爆者の話を聞き、原爆ドームや平和記念資料館を見学。あまりの悲惨さに言葉が出なかったのを今でもよく覚えている。
今回は国立航空宇宙博物館別館で、広島に原爆を落としたB29爆撃機「エノラ・ゲイ」を見た。銀色の機体に刻まれた「ENOLA GAY」の文字。機体を見ていたアメリカ人に「原爆投下について、正直な思いを教えてください」と質問した。
多くの人が「日本では多くの人が犠牲になったから、とても悪いことだ。でも、原爆投下があったから戦争が終わり、たくさんの命が救われた」と答えた。「原爆を投下したエノラ・ゲイはアメリカにとって偉大なヒーローだ」。オハイオ州のスコットさん(63)の言葉を聞いて、とても複雑な気持ちだった。
同世代交流会で出会ったレオ君(14)とサム君(15)は「原爆投下で太平洋戦争が終わった。だからエノラ・ゲイのパイロットは英雄だ」と習ったという。アメリカでも多くの中学校高校では、彼らが受けたような授業は少なくなっているそうだ。だが、実際にそう学んだ若者がいるということを知った。
戦争に限らず、何かを「した」側と「された」側では、物の見方は180度違う。だから伝え方が変わってしまうことは仕方がないかもしれない。しかし、74年前に何があったかを知ることは非常に大切だ。戦争の記憶を語れる世代が少なくなってきている今だからこそ、若者がその声を聞く機会に積極的に参加するべきだと思う。
<音楽の力 世界を変えられる>
今回の滞在で強く感じたのは、「英語はコミュニケーションツールなのだ」ということである。取材では相手の英語がうまく聞き取れなかったり、相手に自分の英語が通じなかったりしたことが何回もあった。しかし、聞き取れなかったら「ワンモアプリーズ」と言って聞き直し、自分が知りうる限りの英語で伝えで、とりあえずガムシャラに相手とコミュニケーションを取った。うまくいかない場合もあったが、何回かやっていくうちに、なんとなくコツをつかんでいった。そして聞き取れたり、伝わったりすると、自分も相手も「Oh!〇〇!」とうれしくなる。あの感覚が忘れられない。
ニューヨーク日本総領事公邸では、ジャズピアニスト・作編曲家の宮嶋みぎわさんの話を聞いた。実感したのは「世界共通の言語は音楽である」ということだ。僕は今、吹奏楽部に所属しており、日々吹奏楽漬けの日々を送っている。正直、音楽をやるのがつらい時期はあった。でも最近は音楽が持つ、とてつもない力を感じている。
言葉が通じなくても、相手と分かり合えなくても、音楽は大昔からずっと人類に寄り添ってきた。今、世界中で起きている問題が音楽で解決するならば最高だろう。でも残念ながら、そうはいかない。だからせめて、世界中の皆さんにこれだけはお願いしたい。音楽を聴いたり、演奏したりする時くらいは、誰かを憎んだり、恨んだりせず、純粋に音楽を楽しんでほしい。音楽はきっと世界を変えられる。
宮嶋さん、ニューヨーク日本総領事の山野内勘二総領事・大使、共同通信の永田正敏ニューヨーク支局長が演奏してくださったジョン・レノンのイマジン。あの音楽は、僕の心の中に今も残っている。
この夏のアメリカ訪問は、人生のターニングポイントになったと思う。今まで持っていた価値観も考え方も良い意味でぶち壊された。たくさんのコトを知った。たくさんのモノに触れた。たくさんのヒトと話した。すべてが貴重な思い出である。一緒にアメリカに行った仲間たちとの出会いは何よりの宝物だ。あの1週間の経験を必ず次に生かす。「世界は自分の知らないコト・モノ・ヒトでできている」。これを胸におき、おごらず、焦らず、自分のペースで考え続け挑み続ける。1週間本当に楽しかった!
<米国人 核保有支持の声多く>
唯一の被爆国である日本は非核国だ。一方で、アメリカは核を保有している。アメリカ人が核に対し、どんな意識を持っているのか。国立航空宇宙博物館別館を訪れ、広島に原爆を投下したB29爆撃機「エノラ・ゲイ」の周辺で取材した。
ワシントンDC在住のビルさん(75)は「他国が核を保有しているから、米国も保有し続けているのだと思う」とし、カリフォルニア州から来たジムさん(62)は「日本が核を持たないことはいいことだと思う。でもだれかが核を持ち、世界の安全を見守ることをしなければならない」と答えてくれた。
米国の核保有を支持する声は多かった。アメリカの「核の傘」に頼る日本として、核を持つ国があるのは仕方がないのか、と感じてしまった。
コロラド州のトレイシーさん(41)は「今後も争いは絶えない。核が無くなったとしても、それに取って代わるものが開発されるのではないか」と語った。核が消えても、何らかの戦力による抑止力が続くという考え方は予想外だった。
幅広い年代の人に取材し、さまざまな意見を聞いたことで、考えの幅が広がった。世界を見回し、これからも核問題を考えたい。
エノラ・ゲイの前で集合写真を撮った時、それまでと同じように無意識に手でピースサインをしてしまった。滞在中に取材に協力してくれた米国在住の日本人ジャーナリストに「ここでそういうポーズを取るのはどうか」と言われ、はっとした。日本人としての自覚を持った行動をするべきだった。
<日本の食文化 広がりを実感>
ニューヨークの韓国料理店で昼食をとった際に、同席した現地のゲストの皆さんからいろいろな話を聞いた。日本食はおしゃれでヘルシーなイメージがあり、アメリカでも大人気だという。最低50㌦からの高級店もあるそうだ。
ニューヨークのスーパーにもすしが置いてあった。ワシントン郊外のアーリントンで、同世代のアメリカ人と交流した時も、すしがメニューにあり、日本の食文化は広がっているなぁと実感した。
聞いた中で一番印象に残っているのはラーメンの話だ。日本でラーメンと言えば、気軽に食べられる食べ物だろう。しかし、アメリカでは高級感があるようだ。日本人のように勢いよくすするのではなく、一本一本ゆっくり味わって食べるという。そんなことをしていては麺がのびてしまうのではないかと心配になってしまう。
中南米からの移民がアメリカで料理店を開く時は、母国の味を出し、安くておいしい店が多いそうだ。アメリカになじむのではなく、自国の食文化を持ち込んでいるのだ。今回の経験を通して、私もいろいろな文化を尊重できる人間になりたい。
英語での取材は、相手に伝わるように話すことが難しかった。相手の話す言葉が速すぎて聞き取れなかったり、分からない単語が出てきて困ったり、本当に大変だった。自分の英語が伝わったときや、相手の言っている内容が分かったときはうれしい瞬間だった。英語で話す自信が持てるようになり、積極的に話し掛けることもできるようになった。取材を快く受けてくれたアメリカ人の皆さんに感謝したい。
<同性愛 平然と話すこと驚き >
アメリカ滞在中、主にワシントンDCで、同性婚について取材した。アメリカの人々は同性婚や同性愛について、それほど周りを意識しないで話していた。他人の目を気にする意識が、いい意味で低いと感じた。
60代くらいの米国人夫婦から取材を始めた私は、いきなり驚いた。「同性婚についてどう思いますか」と聞くと、妻が「私の息子は同性愛者だよ」と答えたのだ。いかにも普通の感じで話してくれた。
20代女性も「私の友達には同性愛のカップルがいる」と、身近な話題のように答えてくれた。同性愛について、初対面の相手に平然と言えることに私は戸惑いと驚きを感じた。
「同性婚についてどう思いますか」という質問を十数人にした。否定的だったのは4人で、全員が宗教上の理由だった。ほかは「個人の自由」「みんなが幸せならいい」など、肯定的な意見だった。
米連邦最高裁は2015年に同性婚の権利を認める判決を出した。日本ではまだ法的には認められていない。同性愛者がカミングアウトしにくい雰囲気が、社会に残っていると感じる。
日本では、人と違うことは恥ずかしいという感覚を持ちすぎるあまりに、少数派に対しての理解の姿勢が足りないのではないか。誰もが過ごしやすい世の中になるように、制度や個人の意識を変えていく必要があると感じた。
<SNS利用 幅広いテーマで>
ニューヨークで、SNS(会員制交流サイト)の使用について取材した。質問した約10人中、6人がインスタグラムかフェイスブックを使っていた。いずれも10代から20代の若者だった。
どんな関心や興味をテーマにSNSを使っているか聞くと、「写真」「映画」「フィットネス」「健康」「ファッションデザイン」など、さまざまな答えが返ってきた。
もし同じ質問を私の周囲の高校生にしたら、「Kポップ」「タピオカ」など、同じテーマに集中するように思う。米国では周りに合わせることに対する意識が低く、日本では周りに同調しようとする傾向があり、違いが出てくるのではないかと感じた。
<貧困対策への注文さまざま>
米国に貧困があるかどうかや貧困対策について聞いてみた。いろいろな見方や考え方があり、貧困問題を解決するには多くの時間とお金がかかると感じた。
ミネソタ州ミネアポリス市のケイトリンさん(29)は、地元大学の大学院で考古学を専攻する。「学費が高い。勉強に追われてアルバイトもできない」と話す。親との同居で自分の生活費は少なくて済むが、外食したり、新しい衣服を買ったりする余裕はないそうだ。「ホームレスではないが、自分は貧しい」という。「州や市の予算は、お金を使える人が集まる娯楽施設などに使われていると思う。もっと貧しい人のために税金を使ってほしい」と不満を漏らした。
米国滞在中、ワシントンDCでもニューヨークでも、路上に座り込むホームレスと思われる人を何人も見かけた。
ニューヨークの報道博物館「NEWSEUM」を訪れていたアイオワ州のボイドさん(56)は、ホームレスになる理由として、病気と失業があると教えてくれた。「ホームレスになることで、精神を病んでしまう人もいる。ホームレスの心のケアをして、再び仕事ができるように、もっと予算を使うべきだ」と訴えた。
メリーランド州の元エンジニア、デビッドさん(74)は議会制度に注文を付けた。「上院議員も下院議員も、大統領と同じように3選禁止にしたり、公約を守れなかった場合には辞めさせたりする制度も必要だ」と話した。
質問した多くの人は、ホームレスのような生活を送っているわけではない。でも、貧困を身近な問題としてとらえ、さまざまな意見を話してくれたことが印象的だった。
<巨大なチキン完食 会話弾む>
アメリカでの食事は日本に比べて量が多く、一人で食べきるのはとても難しかった。日本で食べる料理よりも味付けが濃かったように感じ、主食も少なく、健康的な食事だとは思えなかった。あの量と味付けで毎日生活をしていたら絶対に肥満の人が増えてしまうだろう。健康にも悪影響が出て、医療費が増えると思うので、改善が必要ではないだろうか。
食事の量が多いから残食がたくさん出てしまい、無駄が多いとも感じた。世界には、食べることもままならない人がいる。食べ過ぎて助けが必要な人が多いと、食べることができない人を減らすことは難しくなってしまうと思う。
それでもアメリカの食事のボリュームというのはなんだか夢があるようで、時々であれば楽しむことができそうだ。ニューヨークの夕食で出た巨大なチキンは、とても大きくて、ほとんどの中高生記者が残したが私は完食した。それが周りを驚かせて、その後の会話が弾んだ。アメリカの食事は、このように会話を弾ませる雰囲気につながることもあると感じた。
<原爆への認識 世代間で変化>
目の前に現れた銀色の機体は静かに重々しい雰囲気を放っていた。74年前、広島に原子爆弾を投下したB29爆撃機「エノラ・ゲイ」の実機だ。機体を前にして、私は言葉を失った。
ワシントンDCの国立航空宇宙博物館別館に置かれた機体の前には原爆がもたらした被害についての説明は一切なく、疑問に思った。そんな機体を見つめる人たちに取材をした。
「アメリカが日本に原子爆弾を落としたことについてどう思いますか?」。ワシントンDC在住のビルさん(75)は「戦争を終わらせるためには必要なことだった」と答えた。米国で10人余に同じ質問をしたが、半数以上は原爆投下に対して肯定的だった。唯一の被爆国である日本の国民として、悲しさとやるせない気持ちでいっぱいになった。でも、「戦争を終わらせるため」といわれると反論しきれない自分もいた。そんな自分に少し悔しさを覚えた。
予想外の答えもあった。父娘でミシガン州から同館を訪れたジェームズさん(49)は「戦争学習をした中学生時代は冷戦中だった。原爆投下は仕方がないことだと習った」と答えた。しかし、娘の高校生ザラさん(13)は「学校で原爆投下はひどいことと教わった」という。教育によって、世代間の原爆に対する認識が変わっていくことを知った。
今回取材に応じてくれた全員が「戦争は良くない」と答えた。平和を求める姿勢に国や文化の違いは関係ない。終戦から74年がたち、戦争を知る人が少なくなる今、若者から大人まで全員が、平和とは何かを改めて自分に問いかける必要があるのではないか。
今秋、私は学校の研修旅行で初めて広島を訪れる。この目でエノラ・ゲイを見て、意見を聞いた後、広島で何を考え、何を感じるのか。一つの視点にとらわれず、さまざまな観点から戦争と平和の在り方について熟考し、自分なりの答えを見つけたい。
<男女平等目指し意識変化を>
日本では女性差別や男女格差が問題になっている。
世界経済フォーラムが発表した2018年版男女格差報告では、日本は149カ国中110位、G7の中では最下位だった。そこで、アメリカ国内の男女格差や平等についての意見を聞き、どうすれば日本で男女平等社会を実現できるか考えた。
女性5人、男性3人に取材した。ほとんどの人が女性への家事の強要があると答え、就職などで男女差別を受けたり、差別を見たりしたことがあると教えてくれた。回答者全員が男女差別を無くすために、デモへの参加、誰かへの相談、訴訟を起こすなどの行動(action)を起こしたことがあるとも言っていた。これらの行動力はとても素晴らしいと思った。
ニューヨークのエリス島を観光で訪れていたミズーリ州出身の女性は「女性差別は気にならない」と答えた。私が驚いて話を聞き続けると、彼女はキリスト教の信者であることが分かった。そして「私の信仰では、女性は男性に従うべきであり、同性愛も認められない」と言っていた。
男女差別は解決すべき問題であるが、宗教的価値観も尊重しなくてはならない。差別が一筋縄では無くならない理由の一つを知った。
お互いの価値を尊重しあい、行動を起こすこと。時代が変わるのを待っていては遅い。男女平等の社会を達成するために、まずは身の回りから意識を変えていきたい。
<「生きた英語」学んでいきたい>
中学生の時、英語の授業でALT(外国語指導助手)の先生のような発音をするのは難しくて苦労した。今回の取材では「ネーティブ以外が話す英語の発音についてどう感じるか」「自分の英語の発音が伝わらない時、どうしたらよいか」などを聞いてみた。
ワシントンDCのホテルの食堂で働いているイモンさん(32)は「アメリカ国内でも州によってアクセントに違いがあるし、人によっても違う。発音や文法に自信がなくても、通訳を通すより、自分の言葉で話した方が伝えたいことを伝えられると思う」と答えてくれた。
デンマークからの観光客のパレさん(40)は「英語を母国語としない私とあなたが、こうして英語で話せていることは素晴らしいと思う。アメリカで自分の発音を聞き取ってもらえないことがあったけれど、繰り返すことで伝わった」と話し、発音の違いをあまり問題と考えていなかった。この時の会話では、私の「pronunciation(発音)」という単語がなかなか伝わらず、繰り返し話して聞き取ってもらった。
取材では、自分の名前を先に言い、相手の目を見て話すことなどを心掛けた。みんなフレンドリーに答えてくれた。ただ、自分の英語力の低さもあり、ほとんど聞き取れない時もあった。
どんな職業に就こうと、これからは英語が必要になると思う。単語を暗記して文法を学ぶことは大切だ。さらに洋画や海外ドラマを見たり、軽井沢町にあるインターナショナルスクールに通う海外出身の生徒と交流したりして、「生きた英語」を学んでいきたい。
<日米で「優しさ」に違いはない>
ワシントンDCからニューヨークへ移動するバス車内で、取材にずっと同行してくれた日本人ジャーナリストのチアキさんが、私たち派遣メンバーにいろいろな質問をした。「アメリカでうれしかったことは」という問いに対し、「エレベーターで声をかけてもらえた」「日本よりフレンドリー」という答えが聞こえた。個人の感じ方はそれぞれだと思った。
私は日本とアメリカにそこまでの違いはないのではないかと考える。言葉や政治や教育など明らかに違うものはあるが、日本でも片言の日本語で頑張って話している外国人がいたら、店員さんは優しく接していると思う。エレベーターで会ったら会釈くらいするし、「開」ボタンを押してくれたら「ありがとう」は言うだろう。日本人は結構優しくて寛容だ。どこの国も「人が喜ぶ」ことはうれしいことで「楽しませたい」って気持ちはあるのだと思う。
旅行、留学、仕事、移住など、目的が違えば感じ方も変わるのかもしれない。自分が今いる場所の悪口を言っても何も生まれない。隣の芝生は青い、それを理解しながら他人と自分を比較したほうがいいのではないだろうか。