<日本語に深い関心 驚き>
バージニア州にある高校で日本語を学ぶ生徒を取材した。彼らは、学校側が経費削減を理由に打ち出した日本語教室の縮小・廃止方針を、署名活動などを行って撤回させたという。彼らの話を聞き、日本語に対する愛情を感じた。
ウィリアム・マクローリンさんは母親が日本人で、周りに日本語を話す人がいたことから、学び始めた。日本語を学ぶ魅力を「日本語を話せれば、多くの日本人と会話ができる」と話し、東京五輪に行きたいと言ってくれた。
日本のアニメや漫画が大好きだというマックス・ドアティーさん。「『ルパン三世』や『名探偵コナン』などを日本語で理解できるようになりたい」と楽しそうに語った。
ウィニー・ブレントさんは大学へ進んでも日本語を学びたいという。「日本語は難しいが、とても楽しい。文字自体に意味がある漢字が好き」と言い、私のノートに「今日は火曜日」と、日本語で取材当日の曜日を書いてくれた。
他の場所では、知っている日本語があるか聞いた。予想を上回る認知度の高さに驚いた。うれしかった。
<米国の銃規制に難しさ>
私は米国で今年2月と5月にそれぞれ起きた高校での銃乱射事件や銃規制についての意見を取材した。多くの人が「悲しい事件だ」と述べる一方で、米国での銃規制は難しいということが分かった。
ホワイトハウス前では銃規制をめぐり年配の女性らと大学生らが激しい議論を展開していた。仲間と銃規制を訴えていたオンカさん(74)は高校での銃乱射が「銃の問題を世に思い知らせる事件だ」と言葉に力を込めた。
リンカーン記念堂では、ピアノを教えているケリーさん(36)に取材。彼女は「このような事件の再発を防ぐために、もっとセキュリティーの強化をしてほしい」と述べた。
また、観光ガイドの女性は銃規制は難しいとして「郊外は家と家が離れている。強盗が来ても、警察が来るまでには時間がかかる」と、その背景を説明した。
この他にも「トランプ大統領は銃規制に消極的である」「米国の憲法には自衛の権利がある」といった現状を話す人もいた。進まない銃規制の複雑な背景に触れ、難しい問題だと実感した。
<ニュース どう伝えるか>
「フェイクニュース」がしばしば話題に上る。悪意のあるものも含めて誤報を指したり、政治家が都合の悪いニュースをこう呼んだりする。これを巡り、報道側と政治家の対立もある。私は夢の一つが記者だ。ニュースはどう伝えるべきか、米国で取材した。
メーン州に住むジェシカさんは「話題性も大切だが、注目を集める部分を切り取るだけでなく、背景まできちんと伝えるべきだ」と話した。
ニューヨークで「新聞をよく見る」と言う若い男性に聞くと、「偏っていると感じる記事には抵抗感を覚える」。トランプ大統領の記事を例に、称賛したり、逆にけなしたりする伝え方は「偏っている」と感じるという。
ニュースを伝える側である新井琢也・共同通信ワシントン支局長は「事実確認を怠らない、うそは絶対につかない、特定の団体の意見だけを記事にしない。記事にはこの三つが基本」と強調した。
米国では新聞やテレビ番組によって主張が違うことが顕著だ。報道側の努力と読者側の判断や読み比べで、ニュースの質が上がると思った。
<米市民が思う米国の良さ>
「人種のサラダボウル」と呼ばれるほど、人や文化が多種多様なアメリカ。そこに住んでいる人たちに、アメリカの一番好きなところを教えてもらった。
高校生のウィニーさんは、フロリダ州での高校銃乱射事件の後、ワシントンの連邦議会議事堂へ仲間と行き、銃規制を訴え続けたと言う。「自分の怒り、悲しみを大声で言えるところが良いと思う。そうすることで自分も変わっていける」と話してくれた。
医者のジェシカさんは、子育て中。「一人一人のつながりも強いから、子育てでも助かっている。仲間意識はとても大切だ」と語った。
交流会で出会った中学生のトーマスさんは「アメリカには何でもあるし、何でもできる」とうれしそうに言った。
自分の意見をきちんと表現する。取材でも感じたことだ。初対面でもフレンドリーに接してくれる人が多かった。日本人にはあまり感じない明るいイメージを持った。アメリカには銃や差別、人権など。さまざまな問題はあるが、国民が手を取り合い、成長していける国だと感じた。
<人種差別解決の糸口は>
米国の人種差別は過去のこと―。僕はそう思っていた。しかし、「今も人種差別が残っていると思うか」という僕の質問に、答えた全員が「イエス」と答えた。
ニューヨークで僕たちの乗ったバスを運転していた黒人のキースさんの話を聞いて衝撃を受けた。ニュージャージーからカリフォルニアに向けてバスを運転している時、急に警察官に止められた。「お前は黒人だからドラッグを持っているだろう」と言われた。車内を3時間かけて探し回っても何も出てこなかった。警察官は何事もなかったかのように笑顔で去ったという。
国連で働くジョンソンさんも黒人。「黒人に対してだけでなく、ありとあらゆる差別が残る」と言った。差別問題を解決するにはどうすればいいのか。答えは出なかった。
国連平和維持活動局で働く高橋尚子さんは「一緒に仕事をしたりサッカーをしたりして交流すると、異なる考えの人同士も仲良くできる」と話してくれた。糸口を見つけた思いがした。これから、考えが違う友達にも話し掛けることから始めたいと思う。
<平和のため できること>
僕は「平和な世界を作るために私たちに何ができるか」をテーマに取材した。
沖縄県ワシントン事務所の阿波連貴夫さんに「中学生でも今、できること」を聞いた。「友達と遊んだり歌ったり平和について考えたりすることが大切。その中で、友達の様々な考えを受け入れていかなくてはいけない」と答えてくれた。
米シンクタンクの若手研究員マイケル・バッカルーさんは国際関係について「お互いの考えを理解して、行動することが平和には必要」とした。
国立自然史博物館を見学していた教師の男性は「異なる意見を受け入れられない人がテロを起こすと思う。だから、自分の国とは違う文化のことを勉強することや相手の話を聞くことが大切だ」と語った。交流会で会った同年齢のガールスカウトも「他の人の意見を聞きくこと」と話していた。
個人も国も、自分と異なる考えの人の言葉や気持ちに耳を傾け、お互いが認め合うことが大切だと分かった。僕と友達の考えが違っても、そこにある友達なりの思いや意図について考え直すことから始めたい。
<食と健康 米国でも意識>
私の中学校では給食に「ぴんぴんキラリ食」というメニューが出る。塩分控えめ、旬の野菜をしっかり食べられる健康を意識したメニューだ。米国での食事は日本に比べ量が多く、私は毎回、残してしまった。肉類が多くジュースやデザートはとても甘い。米国では、健康と食事をどう意識しているのか取材した。
56歳の男性は肉は控えめにして、魚やヨーグルト、パスタを食べるようにしている。「おなかも出ていない」と自慢げに話した。36歳の男性は野菜をたくさん取り、単品にならないようにしていた。「野菜をたくさん食べると気持ちがいい」と笑顔で語った。
47歳の女性は無農薬の野菜を食べるように意識し、病気になりにくくなったそうだ。一方で、52歳の女性は「20歳の息子はビッグサイズの食べ物やスナック菓子が好きで、よく食べるので心配」と浮かない表情で話していた。
取材したほかの人も皆、食事をする時には何かしら健康を意識していた。日本人と同様、米国人も健康と食生活に気を付けていることに変わりはないようだ。
<温暖化意識した行動を>
トランプ米大統領はパリ協定から離脱したが、米国民は地球温暖化を意識して何か工夫しながら生活しているのかどうか、取材した。
会計士のチェイスさん(43)は紙をリサイクルしている。紙は自分でリサイクルセンターに持って行かなければならないが、家から遠く、思うようにリサイクルできないのが欠点だと言っていた。
私と同年代のリリー・バロシナスさん(13)はおじいさんがリサイクル団体にお金を寄付している。学校でも地球温暖化について話し合いをして意識を高めている。「できることからやらないといけない」と話してくれた。
共同通信の永田正敏ニューヨーク支局長(58)に米国の現状について「米国は資源が豊富で困っていないため、意識が低く、世界よりも遅れている」と指摘。「二酸化炭素の排出量が多い米国が積極的にやらないといけない」と話してくれた。
地球温暖化を悪化させるのも、被害を受けるのも私たちだ。だからこそ、世界中に地球温暖化を意識した生活の工夫が広がってほしいと思った。
<知識深め戦争考えたい>
「原爆投下はひどかった。多くの人が亡くなり、よくなかった」。コネティカット州に住む中年の夫婦に、原爆投下についての考えを聞いた時、まずこの言葉が返ってきた。原爆投下に対する米国人の捉え方を取材すると、日本人の心情に添うような意見や中間の意見が目立った。意外だった。
米シンクタンクの若手研究員マイケル・バッカルーさんは、日本留学中に日本人の意見を聞き、今は「当時は仕方なかったかもしれないが、よくなかった」と考えている。しかし、「日本が先に戦争を始めた上に、続けたのだから日本が悪い」と考える人もいるという。私は、太平洋戦争が旧日本軍の真珠湾攻撃から始まった経緯も踏まえて、原爆投下を考えたことはあまりなかった。
核問題の研究者ロメイ小百合さんは「どの国の政府も自国のアイデンティティーを選ぶ。一方だけでなく両方の見解や歴史を知ることが大切」と話していた。私は原爆投下、真珠湾攻撃も含め、太平洋戦争をもっと知り、考えたいと思った。
<将来に生きるスポーツの経験>
私はバスケットボール部に入っている。練習や試合は楽しいこともあるし苦しいこともある。よく、学生時代にスポーツをして得たものは将来、役立つと聞く。何が、どういう状況でプラスに働くのか聞いた。
ベルギーの教師ベロニケさんはテニスをしていた。彼女は「テニスで学んだ相手を尊重する大切さが、先生として子どもと接し、良い関係を築くために生かされている」と話した。同じくテニスをしていたというフランス人のディーダーさんからは「当時、多くの大会に参加したからか、私は競争心が強い。それが会社経営に役立っている」と会社経営者ならではの話を聞いた。
バレーボールやフットボールなどの団体競技からチームワークを学んだことが、皆で団結して仕事をする際に非常に役立っていると話す人も多かった。
私と同年代で連日のハードな練習に疲れを感じている人は多いだろう。私は取材を通して、何げない練習の中にも人生の糧になるものは多くあるのだろうと感じた。見落とさずに拾い上げて生かしたい。
<貿易摩擦が生活に影響>
米中の「貿易戦争」が過熱している。輸入品への追加関税や報復措置といった貿易摩擦の影響を取材した。
サウスカロライナ州在住のキャシーさんは「ネット通販のサイトで中国製品が値上がりしている」と答えた。さらに「おじが養豚場を経営している。取引価格が下がり、経営がとても厳しくなっている」と言う。彼女は「国同士の駆け引きはどうでもいい。自分たちの生活を考えれば、とにかく高い関税をやめてほしい」と訴えた。
カリフォルニア州の農家ガブリエラさんは「経済の話はよく分からないが、生活は以前の方が楽だった」と話してくれた。
確かに、滞在中に見た米国の新聞も貿易摩擦による農業や畜産業への打撃を報道していた。取材でも、現状を変えてほしいという声が多かった。
世界の経済大国である米国と中国。このまま貿易摩擦が続けば、世界経済が受けるダメージも大きいだろう。国民の生活が第一だし、それを実現するための政治だ。取材を通して、早く貿易摩擦を解消した方がいいと思った。
<差別をなくすには正しい知識から>
性的マイノリティーといわれるLGBT。レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字を取った多様な性のあり方の総称だ。私の友人もLGBTの一人だ。彼女はレズビアンで周りからの奇異の目で見られるなど、差別にとても苦しんでいる。日本ではあまり理解が進んでいないようだ。
しかし、それは日本だけではない。ロシアの学生アーニャ・アナスタシアさんは「自分は異性愛者なので同性愛者の気持ちは理解できない。ロシアでは同性愛などありえない」と語った。
一方、取材した欧米人全員が「性に対する考えが異なっても差別にはつながらない。みんな平等だ」と明るく答えてくれた。
精神学者でジェンダー研究もしているというオブゴンさんは「差別は自分と性質が異なるものや見慣れない異質なものを排除したい気持ちから起こる。差別をなくす第一歩は正しい知識を持つことだ」と語ってくれた。
日本のLGBTに対する差別をなくすには、多くの人が正しい知識を持つ必要があるということだ。
<原爆投下の見方に変化>
日本への原爆投下に対する米国人の考え方を取材した。カリフォルニア州のダニエル・ライヒさん(29)は「日本政府の意思を変えるために必要だった。その後の戦争で失われるかもしれなかった多くの命が救われた形となった」と話した。ほかにも、「戦争を終わらせるには仕方がなかった」という声を聞いた。
ただ、取材した米国人7人中、「正しかった」と答えたのは3人。マサチューセッツ州のルーク・レターさん(39)は「二度と同じ間違いをしてはいけない」と語った。「戦争を終わらせるために、別の方法を見つけるべきだった」という意見もあった。
核問題の研究者ロメイ小百合さんへの取材では、米社会の変化を感じた。原爆投下についての世論調査で「間違っていた」と答える人が増えているという。教科書の原爆の記述が、数行だったり被害まで触れていたりと州によって異なることも知った。
取材前、ほとんどの人が原爆投下は「正しかった」と答えると予想していたが、結果は異なった。米国人の意識も変わってきていると分かった。
<感じた銃規制賛成増加>
僕は今年相次いだ高校での銃乱射事件や銃規制を訴えるデモがあったことから、銃についての考えを取材した。若者を中心にこの事件をきっかけに、銃規制に賛成する人が増えているのを感じた。
ワシントンのノア君(14)は「この事件を知った時、自分の事のように怖かった。年齢制限や銃を持つ人の状況を調べるなどの規制をしていくべきだ」と話した。同世代の子供にとって、とても衝撃的な出来事だったのだろう。
ニューヨークの33歳の男性は「銃を持つ事で家族を守れる。しかし、銃は人を殺すための道具になってしまっている。学校で起きたような悲劇を繰り返さないためにも銃を規制する必要がある」と言っていた。
銃乱射事件を取材した経験がある共同通信社の高木良平記者は「若い世代の声にアメリカ全土が動いた。この世代を中心として、アメリカの銃社会は変わっていくという印象を受けた」と振り返った。高校生や若い世代の動きが、銃規制をしていく上で大切になってくるのではないかと思った。
<バリアフリー進んだ米>
アメリカが障害者にとって過ごしやすい社会かを知りたいと思い、車いすを使う人に、日常の移動などで困ることはないか尋ねた。
国立航空宇宙博物館別館では、教師を30年していたというナンシーさん(67)に聞いた。「どこに行ってもスロープやエレベーターがあるから、車いすを押してくれる人がいなくても別に困らない」。笑顔であっさりと答えてくれた。
メトロポリタン美術館で取材したアリゾナ州在住のマーリーさん(30)は、私の問い掛けに少し戸惑う様子を見せた。答えは「車いす生活で、特に困ったことはない」だった。
実際、私たちが訪れたメトロポリタン美術館や報道博物館「ニュージアム」では、ゆったりと広めのエレベーターがあった。国立航空宇宙博物館別館には、とても傾斜の緩やかなスロープが設置されていた。
私の地元の歩道は、車いすで通るには狭い所も少なくない。この取材で、アメリカのバリアフリーは日本よりも進んでいるのではないかという思いを強くした。
<米国で聞いた喫煙の規制>
私の周りには、たばこを吸う大人が少なくない。アメリカでは州によってたばこの規制を設けていることを知った。その現状を知りたいと思い、喫煙場所や規制についてニューヨークで取材した。
バスドライバーのフランクリン・ドミニアスさん(48)は建物内の禁煙に賛成だ。「家の中では、においがつくからたばこは吸わない。外や自分の車ではたばこを吸う」と答えた。
国連本部前で出会ったデンマーク在住のベラさん(19)とソフィーさん(20)は「デンマークも、たばこの喫煙は基本は建物の外」と教えてくれた。
現地の日本ツアーガイドの男性(54)は「ニューヨークではたばこが1箱1600円から1800円と高い。多くの州ではたばこに対する規制が厳しいが、たばこを製造していて規制が緩い州もある」という。また、現状として「ニューヨークでは、実際に街では歩きたばこをする人を見かけることは多い」と教えてくれた。
たばこに対する規制はまだまだ課題がありそうだ。
<平和のため発信し学ぶ>
今年は北朝鮮の核問題に世界の注目が集まり、私は学校で広島・長崎への原爆投下を学んでいる。そこで「世界の平和のために、若い世代にできること、望むこと」について取材した。
テネシー州出身のキット・マコーリフさん(28)は「他国の文化・歴史を知り、国際的な交流を通して世界と関わることが大事」と語った。私は2020年の東京五輪がいいチャンスだと思った。
ペンシルベニア州出身の教師ジョン・ミラーさん(54)は「世代によって平和の捉え方が違うので、多種多様な考え方を頭に入れておくことが大切」。ミラーさんの妻は「まずは大人が良い姿を若い世代に見せてあげないといけない」と答えてくれた。
広島・長崎への原爆投下については、多くの人が「戦争の犠牲者を最小限に食い止め、多くの命を救うためには、それしかなかった」と答えた。とてもショックで悲しかった。原爆投下で何が起きたのかを発信していこうと思った。同時に他国の歴史や文化を学び、理解する努力もしたいと思った。
<心の底から「差別なくそう」>
多民族国家である米国で長く問題になってきた人種差別について、取材を試みた。
ケニア出身のロバート・ロビンソンさん(46)は差別された経験を話してくれた。数年前に電車の中で、見知らぬ客に「おまえはここにいるべきではない」と言われた。このような差別の経験は何度もあって、そのたびに無視しているが「言葉で『差別をなくす』と言うだけでなく、心の底から思ってほしい」と訴えた。
同じくケニア出身のフランクさん(30)は「みんな同じ血が流れているのに、肌の色で判断されるのは、すごくつらい」と答え、「違いを受け入れ、能力を認め、平等に考えてほしい」と言葉に力を込めた。
日本人ガイドの男性は「白人には『白人の方が上』という意識が残っている人がいるのではないか」と言う。
取材を受けてくれた人たちは「日本から来た中学生」の私に対して、真摯(しんし)に応じてくれて、とてもうれしかった。誰もが認められ、お互いを尊重しあい、一緒に生きていける世界になってほしい。民族や人種の違いは関係ないと強く感じた。
<働きやすい環境へ課題>
女性解放運動が行われた歴史がある米国は、誰もが性別に関わらず生き生きと働けると考えていた。しかし、「米国は女性が働きやすい環境か」と質問した私に、女性は全員「ノー」と答えた。
リンカーン記念堂で黒人女性2人に聞いた。サウスカロライナ州の医師ティファニーさんは「米国には、女性は男性より働けないという先入観がある」と話す。そうした環境下で、女性の働く意欲が低いとも指摘。「全ての人が同等に働けるという考えを持つことが大切だ」と訴えた。
ホワイトハウス前で、大学教員の女性は「『ガラスの天井』を壊すべきだ」と言った。女性が頑張っても見えない天井があり、それ以上は上に行けないという意味だ。「ヒラリー・クリントン氏が大統領になっていたら変わっていたかもしれない」とも語った。
女性の「ノー」には、差別や貧困といった負の連鎖を感じた。男性からは「女性は責任の大きな仕事で男性を頼る傾向がある」(ドイツ人の技術者)という声を聞いた。女性にも、現状を変えようと行動する意識が必要だと思う。
<授業で多い議論の時間>
「あなたはどう思いますか?」自分へ求められた問いに素直に意見を述べられるだろうか。気付かぬうちに周囲の人とあまり相違しないよう、合わせてはいないだろうか。米国の同世代の子たちとの会話から、単に問いへの答えにとどまらず、自分の経験や考えを合わせ、より濃い内容を答えてくれることに気付いた。
ボーイスカウト、ガールスカウトとの交流会で同世代と話す機会があった。私は作文に書いた「日本の10代に自殺が多いこと」を話し、どう思うか聞いた。レイチェルさん(14)は「自殺は誰であっても悲しい」と話した後、「自殺は米国でもあるが、相談するカウンセラーがいる」と説明。ライリーさん(12)も「みんなで話を聞くなど助け合っている」と紹介してくれた。このように、背景までしっかり話せるのは、学校の授業で議論することが多いからだという。
リンカーン記念堂で声をかけた若い女性教師は「私の授業では毎日必ず、生徒がディベートや議論をするようにしている」と話してくれた。生徒同士で日常的に意見を重ね合い議論することで、相互理解が深まり、自分の明確な意志を発信する力が培われていると感じた。
<意見持ち行動する10代>
今年、米国の高校で銃乱射事件が相次ぎ、多くの命が失われた。大規模なデモも行われた。ホワイトハウス前で仲間と銃規制を訴えていた女性(54)は「親戚が銃で撃たれたことがある。銃は人を傷つけるための道具でしかない」と涙ながらに語った。
銃に対する高校生の考え方も変わり始めている。ワシントン近郊に住むウィニー・ブレントさん(17)は銃乱射事件をきっかけに、銃規制を求める抗議行動に参加した。「授業を抜け出すこともあって、学校側は止めようとした。でも、親は抗議行動への参加を許してくれた」と言う。
米国では、銃を持つことは憲法で認められている。ウィニーさんの友人の間でも銃に対する意見は分かれ、規制に反対する人もいる。「まだ大きな変化はない。一番の変化は、自分たちが銃規制をすべきだと気付いたことだ」と話してくれた。
意見を持ち、行動できる米国の高校生はすごいと思った。未来を担う若者の意識が変わり始めたことが、銃規制への一歩になることを願う。
<米国の夏休み 一長一短>
私たちの夏休みは忙しい。特別授業などがあり実質1カ月もない。米国の夏休みはどうなのか、聞いた。
リンカーン記念堂に観光に来ていた高校生クリスティーナ・ロペスさん(18)は「夏休みは2カ月以上。学校によるけれど部活動もほとんどないと思う」と教えてくれた。
国立自然史博物館でスタッフをしていた大学生のハーシー・アベニターさん(20)は「長い夏休みを利用してインターンシップという企業や団体の体験労働をしている。進路を決める手助けになる」と紹介してくれた。
訪れた博物館ではよく、そろいのTシャツの子どもを見かけた。さまざまな体験型学習ができるサマーキャンプだ。米国では長い夏休みを日常生活で難しい経験をする機会にしていることが分かった。
2人の子の父親マット・ロペスさん(47)は「(住んでいる場所では)10歳までは子どもから目を離すと処罰される。だからサマーキャンプなどに行かせるが、費用が数十万円にもなることがある」と日本をうらやましがっていた。夏休みの長さには一長一短があるようだ。
<米国から見える日本は>
ワシントン、ニューヨークで日本に対するイメージを聞いた。取材した11人全員が、日本に好印象を持つと答えてくれた。
「日本のアニメ、漫画はアメリカでも人気が高い」とエリック・アレハンジョーさん(14)。日本に行ったことはない。それでも、「日本の文化は友人との間でも日常的な話題」と語った。
大学院生のキット・マコーリフさん(28)は日本に2度の留学経験がある。東日本大震災を東京で体験し、「日本人は互いに助け合っていた。より一層、すてきな国だと感じた」と教えてくれた。
一方、米国に移住したジャズピアニストの宮嶋みぎわさんの話から、日本では気付かなかった課題があると感じた。宮嶋さんは演奏を交えながら「ジャズは人と同じようにはしない」と紹介。「私は性格もそうだったので、日本では小学校から大変だった。米国が一番合っている」と話した。性的少数者に関する日本の国会議員の発言なども例に「米国にも女性差別はある。でも日本では、差別が日常に溶け込んでいる」と指摘した。
<銃規制には厳格なプロセス必要>
銃規制に対する米国民の賛否を取材すると、ワシントンのペンシルベニア通りを埋め尽くす学生デモなどの抗議活動と対照的に、若い世代からも多くの銃規制反対を聞くことができた。
ボーイスカウト交流会で話を聞いたマックス・ドアティーさん(14)は「銃を捨てたら力のない人が体格のいい人に襲われたときなどに対処できない。また規制内容が現実的でないうちに銃を捨てるのは危険」と語った。
ホワイトハウス前で銃規制を訴える年配の女性たちと議論を交わしていた銃規制反対派のエリックさん(20)とオースティンさん(19)は「銃規制は自らを守るという権利を損なう」と語った。
共同通信ニューヨーク支局長の永田正敏さんは「米国は開拓時代から自己防衛と食料獲得に銃を重用してきた。しみついた考えに変化をもたらすことは難しい」と話した。
古くからの自衛の習慣を捨てる不安を取り除いて銃規制を進めるなら、徹底的で信頼度の高い方法と厳格なプロセスが必要なのではないかと感じた。
<銃規制求める高校生ら>
学校での銃乱射事件をきっかけに、米国では高校生ら若い世代が銃規制を求めて抗議行動などをしている。一般市民の銃所持に対する若者の考えを取材した。
ニューヨーク州の大学生ゼノビーンさん(20)は、銃規制を求めるデモに参加した。身ぶり手ぶりを交え、「一度に大量の人を傷つけられる銃の所持は禁止にすべきだ」と熱く語った。
一方、同じニューヨーク州でも高校生メザーさん(15)は「憲法に銃を持つ権利が明記されている。銃を持てる年齢、状況になったら、すぐに持ちたい」と言う。夜など危険を感じるからだという。
銃乱射事件を取材したことがある共同通信記者の高木良平さんは「全米ライフル協会の圧力があり、銃規制の法律を作ることは難しい。だが、銃で友人を亡くした高校生らが声を上げることで社会の意識は変わりつつある」と話した。
銃によって悲しい思いをした高校生らが、これからも声を上げ続ければ、米社会の意識が変わり、銃が規制されていく日が来るかもしれないと思った。
<核保有と廃絶を考える>
米国は北朝鮮に核放棄を迫っているが、その米国が核を保有している事に矛盾を感じ、米国人に考えを聞いた。
15人中、約半数の人が世界から核をなくすべきだと考えていた。テキサス州の会計士スーザンさん(56)は「平和のために核兵器を持ってはいけない」と力説した。
一方、ワシントンのエンジニア男性マークさん(38)は「北朝鮮は攻撃的であり、約束を破った過去があるから核を放棄すべきだ」とする一方、「米国は保有していても使う機会がないだろうから保有してもよい」と話した。
「戦争時の米国の安全のために核は必要」と考えるテキサス州の医師ジョンさん(49)は「米国が世界を守るから、他国は保有しなくてもよい」と話した。こうした意見の人も半数いた。しかし、核使用後の悲惨さへの考慮は感じられなかった。
共同通信の永田正敏ニューヨーク支局長は「米国には、自分たちが悪を倒し世界を守ってきた、正義だと考えている人が多い」と解説してくれた。
戦争被爆国として核の恐ろしさを訴えられるのは日本だけだ。世界から核をなくそうと、日本政府はさらに努力が必要だと感じた。
<相互理解もテロ対策に>
米国で、厳しい荷物検査や大勢の警備員などに出くわした。テロ対策だ。東京五輪開催を控える日本を思った。今やいつ、世界のどこで起こるか分からないテロについて取材した。
2001年米中枢同時テロについて聞いた。当時を知る多くの人が「砂ぼこりを舞い上げ崩れるビル、無差別に多くの命が奪われた瞬間を思い出す」と硬い表情で語った。
9・11記念博物館の近くで、牧師のハンツ・ホーランバックさん(83)に聞いた。当日、ニューヨークの自宅でテロの様子をテレビで見て、ひどく感情的になったという。だが、「今ではテロリストを恨んではいない」と話した。彼はゆっくりと静かに「米国はいつでも他国に優しくしてきたわけではなかった」と続け、牧師の立場からは「信仰の対象が違っても私たちは皆、人間である」と話した。
テロをなくすために、世界の子どもたちへの教育の大切さを指摘する声もあった。テロの背景には、政治や宗教、貧困などさまざまな要因がある。解決への基盤になるのは相互理解だと気付かされた。
<ボランティア 幅広い世代で>
「自分がやった方がいいと感じたことは絶対に実行すべきだ。それが自分以外の誰かのためなら、もっとやってみる価値がある」13歳の少女、サラ・ボールズさんのボランティアに対する強い言葉が、私の心に響いた。
彼女はガールスカウトとして、日常的に奉仕活動をしている。アメリカではボーイスカウトが約360万人、ガールスカウトが約260万人いるという。
アメリカはボランティアに積極的な国だ。国立自然史博物館でインフォメーションセンターのスタッフとして働く年配の女性、マージェリー・フィッシャーさんに聞いた。「自分は元々、自然史が好きで、訪れる人に展示物について教えられるのがうれしいし、自分自身も学ぶことができる」と話してくれた。博物館の近所の住民が、退職してからボランティアをすることが多いという。
分かったことは、子どもたちから年配の人まで幅広い世代がボランティアに携わっているということだ。そして彼らは人を助けることに誇りを持ち、それが自分の利益になるとも考えている。そんな素晴らしい文化がアメリカには息づいている。
<同世代の行動力に驚き>
アメリカの若者の活動を取材して、自分と同世代の行動力のすごさを感じた。
フロリダ州パークランドで起きた銃乱射事件を受けて、ワシントン近郊に住むウィニー・ブレントさん(17)は友人らと銃規制を訴えるデモをした。「自分たちと同世代の男の子が起こした事件に深い怒りを感じた。同世代の私たちが行動を起こさないと銃社会は変わらないと思い、行動を起こした」と話した。
今年は中間選挙がある。前回2014年での18~29歳の投票率が2割以下だったことについて、バージニア州在住の大学生ベンジャミン・リモージュさん(22)に考えを聞いた。彼は「政治への意識が低いことは、とても大きな問題だ」と答え、「若者の投票率を上げるために、友人を投票に誘うなどの活動を行っている」と語った。
全ての若者とは限らないが、アメリカの若者の考え方や活発な行動力に驚かされた。私たち日本の若者も、日常に課題を見つけ、解決できるように行動を起こしていくことは、未来にとって重要なことだと思った。
<国境の壁 賛否を聞く>
トランプ氏が米大統領になってから、波紋呼ぶ様々な政策が出ているが、私はメキシコとの国境の壁建設について意見を聞いた。
メキシコ在住の弁護士の男性(40)は、壁の建設を進めることに賛成だった。「アメリカには壁を自由に作る権利がある」と話した。また、トランプ大統領支持の女性は「米国民が不法移民に対して払うお金の負担が大きいことから、壁を作って防ぐべき」と主張した。
壁の建設を進めて移民を防ぐことは、正しいことなのだろうか。
オランダで大学講師をしている男性は(60)は反対の意見。「国境の壁の建設は『ベルリンの壁』のように悪いイメージを連想させ、お互い理解し合うことができなくなると思う。国境の警備は人の方がいい」と話した。確かに、米報道博物館ニュージアムで見た「ベルリンの壁」は厚く高かった。
また、移民がアメリカの労働を支えていることを指摘する意見もあった。私は別の方法で問題解決を図った方がいいのではないかと感じた。
<見て感じる平和教育を>
私は今まで戦争やテロを身近に感じたことはなかった。米中枢同時テロは十分に事前学習をしたつもりだった。だが実際に9・11記念博物館を訪れると、当時の映像やがれきの展示に足がすくみ、言葉を失い、頭を殴られるような衝撃を受けた。「百聞は一見にしかず」。今でもはっきりと脳裏に焼きついている。
原爆ドームと広島平和記念資料館は「ショッキングだった。行く前のイメージをはるかに上回った」。核問題について研究者のロメイ小百合さんに提示された論点で議論した際、広島を修学旅行で訪ねた仲間がそう言った。私はぜひ行きたいと思った。米国には原爆投下が「正しかった」「間違っていた」の二つの意見があること、教科書の原爆の記述が数行の州や被害まで詳しい州があることなどを聞いた。知ることが大事だ。
日本は唯一の戦争被爆国として、広島、長崎などを訪れる修学旅行を必修化するなど、実際に見て感じられる平和教育が必要ではないかと思った。当たり前の生活がいかに幸せか、もっと多くの人が気付くはずだ。
<温暖化対策、世界規模で>
日本は今年、記録的な猛暑に襲われた。地球温暖化による異常気象が世界規模で深刻化しているように思えるが、トランプ米大統領は地球温暖化対策の国際的枠組みである「パリ協定」からの離脱を正式に発表した。人々はどう考えているのか、聞いた。
トランプ大統領を支持するという女性は「政策の優先順位が違う。炭鉱労働者らの仕事をなくさないこと、二酸化炭素削減より経済的政策を優先させている」と力説した。
一方、リンカーン記念堂で出会った女子大学生(21)は「授業で地球温暖化について議論する。トランプ大統領は地球環境問題に非協力的で、政府と国民の意見が一致していない」と力説した。
共同通信ニューヨーク支局の記者は「アメリカの温暖化対策は、全体的に日本に比べて遅れている」と説明してくれた。
空気や水には国境はない。多くの日本人はものを大切に使うことや節電の意識が幼いころから身に付いている。私たちの小さな行動が重要だ。そんな取り組みも世界規模で取り組んでほしいと思った。
<性差別 日米の違い知る>
私の身近には、女性差別と思えることが少なくない。米国はどうだろうか。「女性差別を巡る状況は、日本より良い」。ニューヨークに移住したジャズピアニスト宮嶋みぎわさんは語った。「米国にも差別はある。でも、差別はいけないという暗黙のルールがあり、差別が不問になることはない」とし、「無意識の差別がある」という日本との違いを指摘した。
取材では多くの人から、女性差別は会社や仕事の中で起きていると聞いた。31歳の男性は「同じ立場なのに、男性に比べ女性の給料が低いことがある」と話してくれた。
小学校教師のブランコ・ソニアさん(42)は「アニメは男の子がメインで女の子が引き立て役というパターンが多い。女の子はメインになれないという差別的なイメージが子どもに付いてしまう」と言う。ソニアさんは、こうした女性、男性に対するイメージを比較させ、児童が自ら考える学習を行っているそうだ。
日本も何げない場面に差別が潜んでいるかもしれない。多くの人が考え、意識を深める機会が必要だと感じた。
<自分のしたい事を仕事に>
日本では働き方改革法案が可決され話題になったが、米国では仕事への意識や職業選びについて、どう考えているのか取材した。
国立航空宇宙博物館別館で取材したジェミーさん(69)は「仕事よりも家族の方が大切」と言う。加えて「するべき事(仕事や勉強など)を好きになる事も必要で、仕事の時には家の事は考えないのも大事」と語った。
会社を退職後、米国に移住し活躍しているジャズピアニストの宮嶋みぎわさんは「休みはほとんどない。自分のやりたい事が仕事なので、家でもやってしまうから」と話した。やりたい事ができている姿がうらやましく思った。
在米日本大使館の鈴木聡一郎さんも「どの仕事も大変なので、やりたいと思える、楽しめる事を仕事に選んだ方が良い」と答えてくれた。
ツアーガイドの男性は「いい仕事には休みが必要」と言い、仕事とプライベートは完全に分けているそうだ。
私も将来はやりたい事を仕事にしたい。それに加えて、仕事以外でも充実した時間をすごせるようにしたいと思う。
<「差別是正措置」は必要>
アファーマティブ・アクション(AA)。雇用や教育で黒人や女性などに特別枠を設ける積極的差別是正措置のことだ。一定の成果を上げた一方、「逆差別だ」との声もある。私は、AAがこれからも必要かどうか取材した。
「白人に比べ黒人にはチャンスが少ない。これからも必要」と答える人が多かった。中学教師のD・ウィットナーさん(33)はその一人。黒人で女性だ。「(どんな制度も)完璧なものはない。逆差別の例も起きるかもしれないが、黒人や女性が上を目指すきっかけになる」と話した。
白人のワンダ・ビトナーさん(55)は、息子が役所の採用試験で黒人が優先されたために落ちてしまったと言う。「なくすべきだ」と主張した。
キット・マコーリフさん(28)が通う大学院は白人男性が多い。黒人はまず見かけないし、女性もごく少数。彼女は「皆が進学する場所ではないけれど」と前置きし、「人種や性別に、学歴や経済的な差は感じる」と話した。
AAは完璧ではない。だが、これからも必要な状況にあることが分かった。
<大きく割れる米の世論>
今、アメリカは大きく割れている。トランプ大統領支持派と反対派だ。
トランプ氏の言動が大統領にふさわしくないという声も少なくない。34歳の女性は大統領の言動全てが頭にきてしょうがないという。「大統領はひどい偏見の持ち主でうそつき。白人以外への態度は見ていられない。女性を軽く見ている」。彼女は終始、強い口調で訴えるように語ってくれた。
ほかの反対派の人たちも口をそろえて「次の中間選挙でトランプを止めなければいけない」と危機感を募らせていた。
一方で、大胆な発言とアメリカファーストを唱える姿勢が、政治家に不信感を持っていた低所得層や農家の心をつかんでいる。トランプ支持という女性は「不法移民は税金を納めておらず、アメリカ人の雇用を奪っている」と主張した。
11月の中間選挙に向けて、これから両派の議論はさらに激しくなっていくだろう。選挙の結果が今後のアメリカ、世界に大きく影響してくることはほぼ間違いない。
<移民問題に複雑な思い>
アメリカは移民によってつくられた国だ。ワシントンやニューヨークを歩くだけで、さまざまな人種、ルーツを持つ人と擦れ違う。しかし、今のアメリカは、不法移民の取り締まりを強化するなど寛容でなくなっている。
校長先生だというマックグリーニーさん(38)に移民の印象を質問すると、「一緒に働く先生はとても真面目で、心地いい」と教えてくれた。
メキシコからの移民というステファニー・フローレスさん(44)と娘のエイミーさん(13)に取材した。家での食事はメキシコ料理と自分たちの文化を大切にするし、「アメリカで違う国の文化と触れ合えて楽しい」と言う。
しかし、「今は正規の移民もたくさんいて飽和状態だと思う。元々いた人の仕事が減っている。正規の移民の数も制限していいのではないか」とも話した。
私は将来、アメリカに住んでみたいと思い、多様な人たちが行き交う街で居心地の良ささえ感じていた。アメリカが変わってしまうようで、複雑な気持ちになった。
<壁への考え 多様な視点>
トランプ米大統領がメキシコ国境の壁建設を進めようとしている事に対して、ワシントンとニューヨークで人々の考えや思いを取材した。
父がこの問題に興味があるというブラジル人のカレアさん(21)は「アメリカ政府はもっとメキシコ人の意見を聞いた方がいい」と話した。「もし進めればメキシコはどうなると思うか」と聞くと「最悪の場合、戦闘になってしまうかもしれない」と答えてくれた。
スペインから来たミレンさん(23)に「国境の壁建設を進めようとしている米政府をどう思うか」と尋ねた。「アメリカはメキシコに恨みがあるように見える。メキシコが少し、悪い人扱いをされているみたい」と話した。
このほかにも、賛成する人の中には、毎年の警備のためにかかる金額の方が、壁を作るよりも高いのではないかという考えもあった。反対の人には「ベルリンの壁」のように、国同士に大きな境目を作る事になってしまうのではないかと心配する声もあった。さまざまな視点から、国境の壁への考え方が分かった。
<軍事力より人々の交流を>
日本は憲法上、軍隊を持たない。日本で暮らす私は、軍事力と平和は対極にあるという印象を持っていた。訪れたアメリカは世界でも圧倒的な軍事力を持つ。戦争もしている。アメリカ人に軍事力と平和に対する考えを聞いた。
息子が海軍の軍人で自分も退役軍人だというクリスさん(70)は「各国の力の均衡を保つために軍事力は必要」と話した。「軍事力を持っている国がある以上は、対抗する軍事力が必要」と考えている。
国立航空宇宙博物館別館で第2次世界大戦時の戦闘機を眺めていたジミンさん(16)は軍事力について「使った後のことを考えれば持つべきではない」とした上で、「世界中の国が互いに多様な考え方を尊重し合えるようになるまでは、必要」と話した。
見学した国連本部で、「世界で使われている軍事費の約20%があれば、全世界の子どもが飢えずに暮らすことができる」との説明を聞いた。どれほどの軍事力が生まれ、どれほどの人が傷つくのか。やはり人々がコミュニケーションを図り、相互理解を深めるべきだと感じた。
<安心な食べ物 意識は同じ>
食品を購入する際、日本では生産地や製造地を気にする人が多い。私も特に野菜や果物の場合、できる限り農薬が少ないもの、安心なものを選びたいと思う。米国は大規模農業で、飛行機や大型機械で農薬や肥料をまくイメージがある。米国に住む人の意識を取材した。
スーパーマーケットのオーガニック野菜コーナーで取材した。オーガニック野菜とは化学肥料や農薬の使用を控えて有機肥料を使い、安全とおいしさを目指す有機栽培の野菜だ。71歳の女性は「農薬は健康の面で不安を感じる」と話し、産地も「どちらかと言えば地元産が安心」と語った。
ワシントンで取材した37歳の女性は「子どものためにオーガニックを選びたい」と言う一方で「値段が高く、家族も多いから頻繁には購入できない」と顔をしかめた。実際に店で価格を比較するとオーガニックのキュウリは通常より2.5倍の価格だった。
近年は米国でも食や健康を対する理解が深まってきているそうだ。より安心なものを食べたいが、価格も気になる。意識は米国も日本も同じだと感じた。