取材報告

帰国後の取材報告です。

髙瀬 ひかる (川中島中学2年・長野市)


「アメリカにある日本の文化」

 ラーメン、UMAMI、カラオケ…。ニューヨークの街をバスの車窓から眺めたり、歩いたりすると、私が見慣れたり聞き慣れたりした日本語が飛び込んできた。
 まずはカラオケだ。確かに近頃はテレビで外国人が日本の歌謡曲を上手に歌っている場面を見ることがある。しかし、まさかカラオケまでアメリカでそのままKARAOKEという表現で存在しているとは非常に驚いた。
 寿司は、日本からアメリカに渡り、その後はカリフォルニアロールなるものまで生まれた。聞くと、寿司バーまであるという。多くの日本人が好んでいる寿司を独自にアレンジしていろいろな形で提供しているのは、嬉しいことである。
 米在住のコーディネーター川尻千晶さんに聞くと、アメリカの日本語はカラオケや食にまつわるものばかりではない。絵文字である。今、絵文字はアメリカでブームが起きているらしい。絵文字を主人公にした映画が公開されたほどだ。若者向けの雑誌には絵文字がデザインされた雑貨やフェイスマスクなどの化粧品も掲載されていた。私もミュージアムで購入した。
 今、日本の食や文化は世界に広がっている。共同通信の記者さんによると、日本人が食や文化を持ち込み、ヒットしたりアメリカ人が流行に取り入れたりしていく。その流行がヨーロッパへ伝わり、その後、世界各地に伝わっていくそうだ。
 日本で当たり前にあることが海外で取り入れられ、それが流行する。日本人にはない視点から海外で流行する文化は興味深いものだ。



「理解もテロを防ぐ方法」

 世界貿易センタービル跡地で、エリザベスさんに出会った。2001年米中枢同時テロ発生時はちょうど出勤途中で、タクシーからビルの様子を目撃したという。「大変な状況の中、いつも以上に助け合っていた」。その後の人々の様子を振り返った。
 テロは今も世界各地で起きている。私は「どうすれば、テロをなくせるか」を尋ねた。ワシントンで、インドの男性は「多くのテロリストが住む国へ行き、拠点をつぶすことが重要」などと話した。それはまた人が死ぬということだ。暗い気持ちになった。
 10代の女性は「完全にはテロを止められないが、セキュリティー強化はできる」。確かに米国滞在中、建物に入るたびにバッグを開き、金属探知機をくぐった。厳しい検査で防げるテロもあるだろう。
 米中枢同時テロの遺族団体が運営する博物館で、当時消防士として救助活動をしたブレンダ・バークマンさん(65)が「さまざまな人たちと交流して理解を深めてほしい」と話してくれた。分かり合うことも、テロを防ぐ一つの方法ではないかと思った。

藤室 東子  (三陽中学3年・長野市)


「将来の夢『人を助け合い』がキーワード」

 同世代の人に将来の夢を聞いた。報道の博物館ニュージアムでの取材では、ムーアさん(16)は「犯罪について学校で勉強している。だから将来は弁護士になりたい」と話していた。
 交流会でのボーイスカウト、ジャシー君(14)は「多くの人を救いたい。お金もたくさんもらいたい。だから医者になりたい。そのために、今からコツコツ勉強する」と話していたという。
 ほかの人への取材でも多かったのが「人を助けたい」という声だった。米国人は想像以上に、自分の意見や考えをしっかり持っていた。日本の私たちの世代では、自分がやりたいことがまだ分からないという人は多いと思うが、米国人の場合は既に考えて決めている人が多く、驚いた。
 「どんな人にも優しくあれ」。食事会に参加してくれた国連で働く松枝研介さんがアメリカにいて、私たちに伝えたいことだ。「人にいいことをすれば、必ず返ってくる」。私たち世代にやってほしいことは何かと聞くと「いろんな人と関わりを持ち、友だちをたくさん作り、周りが考えたこともないようなことを世界に発信してほしい」と熱く語った。私も優しさを持って生活しようと思った。
 私も将来はまだ分からないが、米国で取材した人々と同様、人を助ける仕事をしたい。取材をしてみて、大切なのは何のために働くかだと感じた。私も何ができるか、考えていきたい。



「文化のルーツさまざま」

 私は書道を長く習っている。日本文化の一つだ。アメリカにはどんな伝統的な文化があるのだろうか。ニューヨークの街で声を拾った。
 コネチカット州出身のジオさん(15)は曽祖母がギリシャ人だという。「ギリシャの祭日には必ず、家族でギリシャ料理を食べて祝う」と紹介してくれた。一緒にいた女性(17)は曽祖父がレバノンからの移民。家ではレバノン風の料理が出たり、家族の名前はレバノンの呼び方だったりするという。
 テキサス州出身のコペランドさん(46)夫妻に聞くと、祖先からの文化は思い当たらないが、テキサスではバーベキューが文化だと言う。クリスマスやイースター(復活祭)、独立記念日、ハロウィーン、サンクスギビングデー(感謝祭)は夫婦で必ず休暇を取り、旅行をするそうだ。
 米国人のルーツは世界中にあり、現在住む地域の特性もある。違うことが面白かった。私が小学校3年生から習っている書道を紹介すると、素晴らしい文化だと感心してくれた。ほかの文化の良さを認めてくれると感じた。

羽田 蒼馬  (塩田中学2年・上田市)


「多様な人々が共存できる政策を」

 今回は、トランプ政権の移民政策について質問した。6カ国の人々の入国を制限した大統領令について、リンカーン記念堂で取材した。アメリカ在住の男性(17)は、「差別的だから支持しない」という。「イスラム教徒がすべてテロリストなのではない」とした上で、「テロが起きるかもしれないから入国を制限するというのは視点が違うと思う。移民・難民は一生懸命だから、アメリカ人になれる制度をつくった方がいい」と語った。
 また、イタリアから来たという40代の女性は「差別的で、いいことだとは思わない。イタリアはこんなことはしていない」という。「ある人だけにフェアでないので、おかしいと思う」と話した。
第2次世界大戦時の日系人強制収容などについて特別取材に応じてくれた日系3世で全米日系市民協会幹部のジョン・トベさん(56)は、「トランプ氏が当選した理由」として、「アメリカの人々は変化が怖いのではないか」と推測した。「(移民が増えると)宗教や文化の違いがあり、どうしても問題が起きてしまう。それが嫌で、移民政策に厳しいトランプ氏を大統領に選んだのではないか」と話した。
 トランプ氏の移民政策は「差別的だ」などと国内外から批判されていると聞いていたが、現地でもそういった声が多かった。それでもトランプ氏が大統領に選ばれたのは、これ以上の移民を受け入れることへの不安や危機感を持つ人が多くいたからだったかもしれない。宗教や文化の違いはあっても、多様な人々が共存していけるような政策が求められていると思う。 



「核兵器巡る認識に相違」

 核兵器に対する認識を取材した。自分と同じ10代には、7月に採択された核兵器禁止条約について聞いた。ガールスカウトのキャサリンさん(15)は「条約は平和にとって必要」としつつ、核兵器の使用は「必要があれば認めるべき」という考えだった。
 核の議論に関心があるというキャリスさん(17)は「核保有国も含め全ての国が条約に参加すべきだ。不参加の国があるのは残念」と話した。「核はいかなる時も使ってはいけない」と考えるが、こうした意見は多くないという。
 航空宇宙博物館別館で広島に原爆を投下した爆撃機エノラ・ゲイを見ていたバージニア州の男性(26)に原爆投下について聞くと、「戦争終結のためには必要だったと思う。投下がなければ戦争の犠牲者が増えていた」と答えた。今後の世界情勢での核使用は「使うかどうかは別。抑止力としては必要」と話した。
 日本の私たちとは認識に相違があると感じた。ただ、「核兵器は使わない方がいい」との声は多かった。核兵器抜きで国際問題解決の道を探るべきだとの思いを強くした。

小宮山 伶佳 (軽井沢中学3年・軽井沢町)


「原爆はこの世界に必要か」

 「原子爆弾はこの世界に必要か」というテーマについて国立航空宇宙博物館別館で取材した。アメリカの19歳の男性は「核は必要ないと思うが実際、第2次世界大戦で原爆が投下されたことで戦争が終わったから難しい選択だ」と言っていた。原爆のことについては中学の歴史で学んだという。
米陸軍だった親を持つ60代の女性も「確かに第2次世界大戦を終わらせるために必要だったが、自分としては必要ないと思う」と話した。世界の平和を守るために核は必要かと聞いたところ「頭では理解しているが、自分としては核が世界に存在しているのは嫌だ。二度と使ってほしくない」と言っていた。その女性は両親から原爆が及ぼした日本への被害について聞かされたという。
 10歳の女の子は同じ子どもであるという視線から「原爆で多くの子どもの命が失われたから、2度と投下されてほしくない」と言っていた。
 ニューヨークでの食事会に来てくれた国連職員の方の話からは、核をもって核に対応し戦争を起こさないという「核抑止力」の考え方を聞いた。
「原爆はこの世界に必要か」という問いで取材をしたが、原爆を使用することは絶対あってはならないという自分なりの答えが得られた。




「トランプ大統領支持の背景知る」

 日本の新聞やテレビなどはトランプ大統領を批判的な見方で大きく取り上げているように感じる。しかし、大統領支持者は少なくない。実際の声を聞こうと取材した。
 支持者の40代女性は「物事を分かりやすくズバッと言う性格が好き」と言う。初めは、政治経験のない経営者が大統領になったとショックだった。だが今は「その経営力を政治に生かしてほしい。完璧な大統領なんていないし、周りで協力すればいい」と考える。「彼の人柄が好きだ。移民制限やオバマケア(医療保険制度改革)撤廃などの政策を支持している」(18歳少年)といった声も聞けた。
 私の取材内容を、現地で取材している共同通信の記者に話し、捉え方を聞いた。トランプ支持者は生活の向上を願っている人が多く、「特に白人の中間層の人々が支持している」という。トランプ氏の人間性は支持の理由より、不支持の理由に挙げる割合の方が多いそうだ。
 入国制限や攻撃的な言動などで批判されることが多いトランプ大統領。支持する人の理由や背景が少し分かった。

加藤 優和  (信大付属松本中学2年・松本市)


「『平和』を聞いて返ってきた言葉」

 国立航空宇宙博物館別館を訪ねた。そこには広島に原爆を落とした爆撃機「エノラ・ゲイ」など、戦争に使われた飛行機がたくさん展示されていた。そこで「平和とは何なのか」「平和という言葉から何を思い浮かべるのか、私はアメリカで取材した。
ペンシルベニア州在住のマックスさんは「今、世界では争いが多く起こっている。世界平和とは何なのか不安」と話した。同時に「最近のアメリカは自己本位になってしまっているが、アメリカは平和のためのリーダーとなるべき」と語ってくれた。
家族連れでリンカーン記念堂に来ていた10代の女性は「戦ったり、暴力的になったりするのではなく、自由であることが大事」と語ってくれた。
「最近の幸せ」について語ってくれる人もいた。40代の男性は「昨日、ゴスペルの教会に行ったこと」。国連で聞いたスペイン出身の20代女性は「家族と一緒に旅行できていること」と、にこやかに笑顔で話してくれた。
世界の多くの国々は現在、国のため、国民のため、政治を行っている。しかし、対立や紛争がある地域もあるので、取材のように、不安を抱く人もいる。しかし、私たちはまた、ちょっとしたことにも幸せを感じ、生き甲斐にすることができる。一瞬の幸せを何度も何度も積み重ねられること。たくさんの人にそれが広がるようにできたら、世界の平和につながっていくのではないかと感じた。




「差別や偏見に向き合う」

 私たちは人種差別問題をどう捉えればいいのだろうか。実際にあったことや差別への考え方を米国で取材した。
 日系3世で全米日系市民協会幹部のジョン・トベさん(56)は「米国は移民の国なのに、先に来た人が新しく来た人を差別することがある」と語った。米国では第2次世界大戦中、日系人が強制収容され、仕事、財産も失った。「アジアからの移民はまだ歴史が浅く、政治力も弱かったから」と一つの見方を教えてくれた。そして「人種や姿形の違いで仕打ちをすることは間違っている」と言った。
 現在も人種差別がないとは言えない。米国歴史博物館でインターンをしている白人の男性は「50年前より状況は良い」とした上で、「経済的な格差はある。白人警察官の黒人射殺などの事件もある」と説明してくれた。
 「差別を改善するには、相手に興味を持ち理解しようとする対話が必要」。トベさんの言葉だ。理解し合おうと一歩を踏み出す勇気が大切なのだ。私たちは、日常の差別や偏見も、自分のこととして向き合うことから始めたい。 

城田 温大  (明科中学3年・安曇野市)


「エノラ・ゲイと青嵐を見ている私」

 国立航空宇宙博物館別館には第2次世界大戦中のB29爆撃機「エノラ・ゲイ」と日本の攻撃機「青嵐」がすぐ近くに展示されている。エノラ・ゲイは昭和20年8月6日、広島に原子爆弾を落とした爆撃機だ。この日は日本人にとって忘れてはいけない日だ。
エノラ・ゲイを見学していたアメリカ人に、原爆について質問した。ウーディーさん(51歳男性)は「広島に原爆が落とされたことは避けることができなかったことだ」と言った。「どの戦争も残酷なもので、当時の日米の戦争は政治的な判断の失敗がもたらしたものだが、原爆を落としていなかったら、より多くの死者が出ていただろうから」とのことだった。
 その答えは日本人の私にとって、とても悲しいものだった。戦争での死者を減らすために14万人以上の広島市民が死ななければいけなかったのだろうか。
 原爆は2度と使われてはいけない。戦死者を減らすために一般の市民が犠牲になるのは矛盾だ。しかし、その矛盾が起きてしまうのが戦争なのだ。
 今、エノラ・ゲイと青嵐は静かに並んでいる。日本人の私がアメリカでそれを見ているのも平和のおかげだ。世界の国々が対立するいろいろな国際問題も平和的に解決してほしい。




「家族の絆深める感謝祭」

 アメリカで、「好きな休日や祝日」を取材した。文化や習慣が分かると思ったからだ。1年間の神の恵みに感謝する秋の「感謝祭」を挙げる人が多かった。
 ニューヨークのローパさん(31)もその一人だ。感謝祭には彼の自宅に家族や友人が集まり、その年の出来事などを話しながら食事をする。1年間の疲れを癒やし、互いの絆を深めるのだそうだ。
 隣にいたローパさんの父トムさん(73)が「日本の休日がうらやましい」と言った。理由は日本の何倍もあるアメリカの広さ。遠くにいる知り合いが多く、感謝祭に集まるのは、実はとても大変なのだという。
 ニューヨークのジーンさん(81)は、クリスマスも大切だが「プレゼントを喜んでくれるか不安がある」。感謝祭は「知り合いと本当に気軽に過ごせる」と話してくれた。
 家族や友人と気軽に過ごすアメリカの感謝祭。日本ではどうだろうか。家族や離れて暮らす祖父母と一緒に、食事をしたり、初詣に行ったりする正月に似ているのかもしれない、と思った。

尾川 玲   (白馬中学3年・白馬村)


「同世代に伝えたいこと」

 私は米国派遣の前、クラスメイトにアンケートに協力してもらった。その中で「差別」と聞いて思い浮かぶ言葉は「人種差別」だった。差別についてアメリカのワシントンやニューヨークで取材すると、同世代にもっと知ってほしいことがたくさんあった。
 取材した人のうち、「人種差別はもう、ほとんどない」と感じている人は何人かいたが、リンカーン記念堂に来ていた黒人のベン・ウィトカさん(33)は「お店に行った時、黒人だから何か盗むのではないかと疑われ、店員につきまとわれることがある」と自分の経験を話してくれた。また、ベンさんの妻ジュンさんは「女性で黒人ということから、仕事での昇格が難しい」と話していた。
 報道の博物館「ニュージアム」に来ていた2人に「差別とは何か」と取材したところ、同じ答えが返ってきた。「差別の意味としては、自分では変えられないもの、持って生まれたものを言い立てることだと思う」というものだった。納得させられる答えだった。
 私たちは日系3世で全米日系市民協会の幹部、ジョン・トベさん(56)から、第2次世界大戦中の日系人強制収容などを特別取材した。その中で、何度も似た言葉が出てきた。「宗教・人種でくくらない」「見た目で決めつけない」。突然、日常や仕事、財産を失って収容所生活を強いられ、終戦後も大変な苦労をしてきた日系人の心からの願いだと思う。
 差別は人種だけでなく男女、障害、宗教、文化、性的マイノリティーなど種類はたくさんある。まずは私も含め同世代は、当たり前のことを「差別かもしれない」と疑う気持ちで生活してほしいと思った。



「常に情報を見極めたい」

 ニューヨークで米国の報道と市民の考え方を取材した。トランプ政権に対する考えは違うのに、同じことを感じている二つの家族と出会った。メディアがニュースに見解を示すことへの抵抗感と、政権に対する意見の二極化を感じていることが共通点だ。
 ミズーリ州から来たヒギンズ夫妻は政権支持。支持、不支持の二極化を感じるという。夫のトムさん(73)はネットでトランプ政権寄りのFoxニュースを見ている。妻のメアリーさん(72)は見ない。「メディア側の見解がうるさくて嫌になった」と言う。
 ワイオミング州から来たノートン夫妻は政権を支持しない。テレビニュースはCNN。トランプ大統領から「フェイクニュース」と非難されている局だ。夫ジョンさん(53)は「私が子どもの頃は事実だけが報道された。今は見解が付け足される。それが二極化を進めた一因」と話した。

森本 快大  (高遠中学2年・伊那市)


「日本にいい印象を持つ人が多いアメリカ」

 僕はアメリカの人たちが日本にどのような印象をもっているのか、取材した。
 ジェイソン・デェイトムさん(30)は「車がすごい。これからも作り続けてください」と答えてくれた。ジェイソンさんの車も日本車だという。確かに街には日本車が多い。僕がアメリカに来て感じたことの一つだ。
 ニューヨーク在住のエディーさん(30)は「世界のみんながもっと、日本人のようになればいいと思う」と言う。「平和主義や教育レベルが高いから」と言われ、僕はそう思ってくれて、うれしく感じた。
 息子さんが沖縄の基地で働いているという女性は「彼が日本の素晴らしさを話してくれるので、行ってみたい国」と話してくれた。
 共同通信の永田正敏ニューヨーク支局長は「アメリカでは健康志向が高まり、和食を買ったり和食をヒントに料理したりする人がいる。洋服も安くて安全だと、日本のブランドを買う人も多い」と話してくれた。
 取材した人たちからは他にも「きれい」「親切」「日本の文化が大好き」など、好印象のメッセージが多かった。
 僕にとってアメリカは「怖い」という印象だった。しかし、取材を受けてくれた人たちは足を止めて目を見て話を聞き、笑顔で答えてくれた。今、アメリカの印象はと言えば「人がフレンドリーで明るく優しい」というものだ。




「大切な言葉で前向きに」

 私は「先生や家族に言われて大切にしている言葉」を聞いた。経験を重ねた大人から、私たちが学ぶことがあると思ったからだ。
 メトロポリタン美術館で取材したウィリアムズ・ジャニスさん(56)は「自分で一生懸命頑張ったことによって、いろいろなものを得ることができる」だった。幼い頃、父親に言われた言葉だ。今年で90歳になる父親は中学卒業で働き始め、家族のためにずっと頑張ってくれたという。
 宿泊先で会ったコーニリアス・キャリーさん(57)は、彼女が14歳の時におばさんが言った「誰かについて行くのではなく、前を行け」。自分の子どもたちにも伝えているという。私は前向きで明るい気持ちになり、自分にとっても大切な言葉になった。
 食事会に来てくれた新聞記者の山田啓介さんは、恩師からの「社会の常識を疑いなさい」を挙げた。思いもしない答えで驚いた。
 異国の地でさまざまな人生を送っている人たちに話を聞くことが楽しかった。これからも人との出会いを大切にして、視野を広げていきたい。

向山 創太  (南箕輪中学3年・南箕輪村)


「言葉を交わす 心を通わせる」

 「なんて、いい人なんだ!」。私たちのバスの運転手、ジョージと出会っての第一印象だった。私はバスに乗る際、「Hello」と挨拶をして乗った。彼は気持ちのいい笑顔で「Hi」と返してくれた。
特別、気に留めることではないのかもしれない。しかし、この直前に私が接したアメリカ人は、あの入国審査の担当官だったのだ。視線も合わさず、私の顔もほとんど見ない。もう手続きが終わったのかと思い、パスポートを手に取ろうとすると「No!」と怒り出す。とても無愛想な対応を受けたあと、ジョージの対応が温かく、すごく印象に残った。
 私たちがバスから降りる際に「Thank you」と言うと、ジョージはいつも全員に「You're welcome」と返してくれた。ジョージは私たちの人気者。こういった対応が人と人とのつながりを深めていくのだと感じた。
 人とつながるにはたくさんの方法がある。トランプ大統領のつぶやきが世間を騒がせ、注目されているのがツイッターだ。共同通信ニューヨーク支局長の永田正敏さんは、彼のツイッターの発信は良い点もあるという。「彼のツイッターは簡単な英語を使っていて分かりやすい。子供らにも理解できる」とし、「大統領が自ら語りかけるということはほとんどない。そんな視点からみれば、彼のツイッターは良いことだともいえる」と話していた。
 私は、そういった手段を使うことは悪いことではないと思う。だが、やはり言葉を交わし、お互いの心を通わせ合うジョージとのようなコミュニケーションが、相互理解や明るい社会へとつながっていくのではないかと感じた。




「入国規制に疑問感じた」

 イスラム圏6カ国からの入国を規制する大統領令について、考えを聞いた。まずはワシントンのリンカーン記念堂で。奴隷解放宣言を出したリンカーン大統領をたたえ、キング牧師が人種差別撤廃を訴えた歴史的な場所だからだ。
 取材した中では、全員が入国規制を「絶対におかしい。良くないことだ」と答えた。アメリカ人の男性は「家族が他の国の友人に会えない。こんな政策はおかしい」と話した。イタリアからの女性、ドイツから来た若い男性も異口同音に「自分の国にそんな政策はないし、公正じゃない」と異議を表明した。
 ニューヨークでも聞いた。カリフォルニア州のマシューさんは「アメリカは他国から人に来てもらうことを前提としている国。トランプ氏はそれを閉ざすようなことをしている。絶対におかしい政策」と力を込めた。
 米国滞在中、私もたくさんの人たちを目にし、会話を交わした。人種、文化もさまざまな人たちがいた。国や宗教などでくくるトランプ大統領のやり方に、改めて疑問を感じた。 

佐藤 さくら (遠山中学3年・飯田市)


「トランプめぐる意見さまざま」

 大統領選挙中から、その言動に注目を集め続けているトランプ氏について、私は取材した。トランプ政権を支持するか支持しないか聞くと、支持しない人からは、移民を排除しようとしているという理由や人種や宗教で差別しているという意見が聞けた。
支持する人もいた。その理由は「トランプはアメリカをより良くしようとしている」「アメリカのために何かしようとしてくれている」ということだった。
また、他国の人にも取材できた。ニュージーランドの男女は「トランプはエンターテインメント。報道されると面白い」。メキシコ人女性は「メキシコの移民を排除しようとしていて、いい気分じゃない」と話してくれた。
ニューヨークに住む私たちのガイド、サカモトさん(53)にも聞いた。「ニューヨークは『移民の街』。仕事も多い。だから大半がトランプ不支持」と言う。一方で、状況が違う地方では、「移民に来てほしくない」というトランプ支持者が多いと傾向があると解説してくれた。「意見は違っても敵味方ではない。お互いを尊重することがアメリカ社会で大切なこと」と教えてくれた。
私はさまざまな意見が聞けて視野が広がったと思う。自由の国アメリカが今後、どうなっていくのか見守りたい。




「戻ってきたタブレット」

 「犯罪が多く治安が悪い。人も接しにくい」。渡米前、私が抱いていたアメリカの印象だ。滞在4日目の夜のこと。ミュージカル鑑賞の後、コンビニに寄ってホテルに戻った。部屋で一息つき、荷物を整理していたら、タブレット端末がない。コンビニに置き忘れたことに気付いた。
 焦った。きっと誰かが持っていってしまう。タブレット端末には今まで撮った写真が入っている。そもそも、母親の知人に借りたものだ。急いで派遣団長に話し、来たばかりの道を2人で走って戻った。
 コンビニに着いて、タブレット端末の忘れ物はあるかと確かめると、返事は「Yes」。店員さんが笑顔でタブレット端末を渡してくれた。
 ホテルに戻って話すと米在住の日本人コーディネーターが「奇跡だよ。普通、誰かが持っていっちゃうもの」と喜んでくれた。治安は悪くても優しい人が何人もいたのだ。
 滞在を振り返ると、取材や訪問先などでも優しくフレンドリーな人がたくさんいた。不注意は禁物。でも、先入観で人を見てはならないことは忘れないでいたい。 

中曾根 愛実 (文化学園長野高校1年・長野市)


「過去を知ることが明るい未来に」

 Understanding yesterday can make tomorrow better.(昨日を理解することは明日をより良くできる)
 9・11トリビュート博物館の壁に書かれた言葉だ。9・11の2つの博物館で、私たちはたくさんのものを見た。テロの瞬間の人々の様子を伝える映像や現場で見つかったぬいぐるみ…。私は9・11が起きた現地で、テロに対するアメリカ人の意見と未来への考え方について取材した。
 9・11記念博物館を訪れていたエレンさん(58)はテロに対して「すぐに止めさせる必要がある」との認識だった。未来に向け、できることとして「子どもたちに教育を受けさせることが重要だ」と答えた。
 世界貿易センタービル跡地付近で話を聞いたスーツ姿のアダムスさん(53)は「彼らがテロを起こす要因として、世界に対し怒りを覚えていることと、簡単に何かを破壊できる知識や武器を持っていること」と現状を鋭く分析した。「しかし、これから私たちが教え、どこの国でも子どもたちが学び、互いに交流することで、心と未来を変えることができる」と真剣な表情で話してくれた。
 テロをなくすには、とても長い時間が必要になる。しかし、私たちは、これからの世界を担う子どもたちに少なからず教えることはできる。歴史や今の世界情勢について語り伝えることで、テロは少しずつ減らせるだろう。
 過去を知ることで、近い将来、またその先をも明るくできる。取材で教えてもらったことだ。



「ボランティア広がって」

 私は学校のボランティア部で活動している。アメリカはボランティア活動がとても盛んだというので取材した。
 交流会で一緒になったガールスカウトのカリスさんは、幼い頃から家庭や学校で積極的に活動するように言われてきたという。博物館のスタッフやリサイクル活動など経験した内容も多様だ。「ボランティアをすることで、相手の状況改善に役立つよう心掛けている」と話してくれた。
 国立航空宇宙博物館別館に来ていたナンシーさん(68)は「何かが必要な人に手を差し伸べることが大切。自分が厳しい状況の時に助けてくれた人に、お返しする気持ちも大事」と語った。報道博物館「ニュージアム」職員の男性は、病気の子どもたちのために薬を寄付しているそうだ。
 取材で声を掛けた人は皆、ボランティアへの考えを語ってくれた。根本に「人のため」という強い気持ちがあることも同じだった。
 日本でもボランティア活動がもっと活発になるといい。お互いを思いやる気持ちも、もっと広がってほしい。そんな思いを強くした。

西﨑 啓吾朗 (長野商業高校2年・飯綱町)


「移民や移民だった人たちでできているアメリカ」

 アメリカと日本の大きな違いの一つが民族構成だ。アメリカは多民族国家で移民や移民だった人々によって形成されている。アメリカ滞在中は様々な人種が混ざり合って生活していることに新鮮さがあった。
 私たちは日系3世でJACL(全米日系市民協会)のジョン・トベさん(56)に、第2次世界大戦中の日系人強制収容などについて特別取材をした。彼は移民について「アメリカの強さは移民である。アメリカ社会全体を池にたとえると、移民という新しい水の流れが入ってくると、池の水は濁らない」と話した。つまり新しい移民が入ってくるから、新しい考え方などが生まれ、社会に変化が起きるということだ。「トランプ大統領の進めようとする移民の規制は、アメリカにとってマイナスになる」と言った。
 また移民についてトベさんは「日本の移民制度はよくない。移民をもっと受け入れるべき」とも話した。確かに日本は移民をなかなか受け入れていない。しかし、トベさんの話からは多民族国家のプラスの面も分かった。少子高齢化の時代、移民を日本に受け入れて人手不足を埋めるのも一つの手かもしれない。それだけでなく、移民の力で停滞した日本に変化が起きるかもしれない。日本はもっと移民の受け入れに積極的になったらどうだろうか。




「食品選びは健康志向で」

 私はマーケティング(市場戦略)に興味があるので、食品選びの基準などについて突撃取材した。
 ワシントンの博物館では、かっぷくがよく白髪交じりの男性職員に質問。「野菜をたくさん食べるようにしている。スーパーでも野菜から買う」と答えてくれた。取材した人の大半がヘルシー、低カロリー、値段の三つを挙げた。米国での健康志向が見えた。
 私たちが昼食で入ったニューヨークのハンバーガー店には「ベジ・バーガー」があった。肉の代わりにズッキーニなどを使っているという。「菜食主義者向けのメニューを用意している店が多い」とガイドの女性。スーパーには有機栽培、タンパク質の一種グルテンを避ける小麦不使用の食品がたくさんあった。
 日本食では、ラーメンやうどんがブームだそうだ。現地の共同通信記者は「日本が長寿なので、和食に関心が集まっている。まだ広がっていない料理が今後ヒットする可能性はある」と言う。日本でも長野県は長寿県。郷土食などをブランドにして発信したらどうだろうか。 

小林 京右  (上田東高校2年・上田市)


「トランプ大統領による社会の変化」

 今年1月、ドナルド・トランプ氏がアメリカ大統領になった。トランプ大統領は「アメリカファースト」と訴え、移民や入国に制限を加える政策などを打ち出している。私はトランプ大統領になってからアメリカ社会で何が変わったのか、聞いてみた。
 現地で取材する共同通信の記者さんに「アメリカで生活していて気づくことは何か」と聞いた。「まだ、そんなに急激に変わったようには思えない」と言う。しかし「支持率はわずか半年で36%まで下がった。これは、生活が苦しい一部の人しか支持できないからだ」と説明。移民の問題も大統領がかわってから大きく動き出し「アメリカの世論は以前よりとても断絶している」と話した。私が解決策を聞くと「大きな国家的な事件や問題がない限り、協力しあえないかもしれない」と言った。
 国連で働く日本人職員の男性は「アメリカで『移民』として生きていくのは大変だし苦労もするが、人種が違ってもゴールを目指せる。皆がみんな違うのがいい」と多文化、多様性社会に好意的な意見だった。



「差別をなくすためには」

 「背景を知らないと未来の設計はできない」。特別取材で、全米日系市民協会の幹部で日系3世のジョン・トベさん(56)は力強く言った。
 トベさんから第2次世界大戦中の日系人強制収容について聞いた。1942年、当時のルーズベルト大統領が大統領令9066号に署名し、日系人約12万人が収容所生活を強いられることになった。収容まで1週間。日常生活から切り離され、仕事も財産も失った。食事も満足ではなく、協力して農作物を栽培した収容所もあったらしい。
 終戦後、強制収容所は閉鎖された。その時、渡されたのはたった20ドル。その後も国籍取得や土地購入の制限などに差別は残り、日系市民は名誉回復などに大変な努力をしてきたという。
 私はこんな差別があっていいのかと思った。差別をなくすには何が大切なのか。トベさんは「経験や思いを次の世代へと伝え、知ってもらうこと」と答えてくれた。また「人を見た目や人種で決めつけてはいけない」と言った。私も人の本質を見て、理解できるようになりたいと思った。 

マメダリエフ アクバル(上田染谷丘高校2年・上田市)


「世界平和を目指す国連の活動」

 1945年に設立された国際連合は誰もが耳にしたことがあるだろう。しかし、その活動内容を知っている人は多くないだろう。私もそうした一人だった。見学や説明を通して認識が変わった。
 国際平和と安全の維持のほか、人権、経済・社会の発展の3つが国連の柱だ。世界平和といっても、現在も世界各地で起きている紛争などを直接、国連が止めることはできないそうだ。しかし、平和を維持するために国連の派遣団が監視をしたり生活を支える活動をしたりする。被害者のための医療、難民になってしまった子どもへの教育の提供など、さまざまな支援を行っている。
 このような支援に必要となる資金は加盟国193カ国からの分担金だ。加盟国一つ一つの経済的状況を考えて決められている。日本の占める割合は2位だった。
 もっと資金を加盟国から集めれば、困っている国に井戸やワクチンなどをもっと提供できるのではないだろうか。私は疑問に思った。しかし、支援はその国が自立し、発展していくためでもあるそうだ。確かに、他の国に支えられているだけでは国とはいえないと私も思った。
 このほか、公用語は6つあること、総会の席替えにくじ引きを用いること、支援に使う物品は文化的に中立なデザインにすること…。国連は世界の平等も目指しているように感じた。私にとって、国連はとても魅力的だった。現在の将来の夢は、国連で働くことだ。



「認め合う心持つ大切さ」

 米国に滞在した約1週間、私は多様なルーツや文化を持つ人たちに出会った。人種差別や多様性、多文化共生についてどう考えているのか、取材した。
 リンカーン記念堂で黒人の夫婦に聞いた。ワシントン在住でロサンゼルス出身のカラさん(22)は「どの人種が優れているなどということは一切ない。私は黒人だという強い意識もないし、恥ずかしくもない」と語った。「人種や文化が違う人々の共生には何が必要か」と尋ねると、カラさんの夫は「やっぱり笑顔」と笑顔を浮かべた。そして「異なる文化を知って、経験して、楽しむことだね」と続けた。違いを認め合おうとする2人の心がうれしかった。
 シカゴから来たケビンさんはフランスやドイツなどにルーツを持つ。シカゴも多様な人々が暮らすという。「時間はかかるけれど、人種や文化の違いを理解し合うことが必要」と話した。同様の考えは多くの人から聞けた。家庭や学校での教育が大切という意見もあった。互いを知ること、認め合う心を持つことが大事だとの思いを強くした。 

渡辺 早紀  (上田高校1年・小諸市)


「国や歴史を大切にするアメリカ人」

 今回の派遣で私のアメリカ人に対する印象が少し変わった。初対面の人にもフレンドリーに接するというのが一番だったが、新たに「国や歴史を大切にしている」という印象が加わった。
 例えば9・11メモリアル博物館。米中枢同時テロから16年、メモリアル博物館完成から3年。私たちが訪れた日も国籍、年齢、性別が様々な人がこの事件の悲惨さを噛みしめていた。
ビルに飛行機が衝突する映像に、私は立ちすくんで動けなくなった。残された大きなコンクリートの柱もあった。亡くなった方たちの笑顔の写真が壁一面に貼られ、一人一人を感じた。展示はどれも、街並みは元に戻っても二度と戻らないあの日を忘れないという心の表れのように感じた。
 他にも、私たちが訪れたリンカーン記念堂のほかにも大統領の記念施設がある。リンカーン記念堂には夏休みということもあり、多くの人が訪れていた。また、連邦議会議事堂には各州から2体ずつ寄付された州を代表する人物像がある。像のモデルは大統領、科学者、アーティストなどの偉人で、各州で決められる。ヘレン・ケラーやトーマス・エジソンなどがあった。
 ニューヨークで高齢のトム・サハジャンさんに「アメリカ人は歴史を大切にしているようにみえるが、なぜか」と質問した。すると、興味深い言葉を教えてもらった。「過去を忘れる者は、それを繰り返す運命にある」という言葉だ。アメリカの哲学者であるジョージ・サンタヤーナの言葉だそうだ。私はこの言葉を聞き、納得した。アメリカ人が国や歴史を大切にしているのは、この考えが根本にあるからだと思った。



「意見を持って語り合う」

 米国の教育は「一人一人が意見を持つこと。人と共有して、より良い答えを導き出せる力を養うこと」を大切にしている。ワシントンで取材した女性ジャッキー・ダレスさんが教えてくれた。中学校でも「自分の興味があることを調べて発表し、クラスで討論して考えを深める」という。感想発表ぐらいしか経験がなかった私は驚いた。
 そんな米国の授業の積み重ねが垣間見えたのが、ガールスカウト、ボーイスカウトとの交流会だ。私たちは5、6人のグループに分かれた。私が好きな教科を聞くと、理科、数学といった返事で終わらず、会話がテンポよく進んだ。合間には必ず「なぜ英語が好きなの」「理科の何が苦手の原因?」と、理由や根拠を尋ねる質問が交わされた。ごく自然な会話なのに意見を述べ合っていて、互いの理解も深まり、とても面白かった。
 私が通う高校でも、2年生になると自分で課題を調べ、議論するようになる。人の意見を吸収して自分の考え、視野を広げよう。答えを見つける力を付けよう。あらためてそう思った米国滞在だった。 

小祝 あおは (松本県ヶ丘高校2年・松本市)


「オバマケアめぐる議論から見える国民意識」

 米上院は先月7月28日、オバマケアを限定的に廃止する法案を賛成49、反対51で否決した。民主党議員48、共和党議員52で構成される米上院。3人の共和党議員が反対票を投じた結果だった。
 議決の結果によっては直に影響を受けるアメリカ国民は、オバマケアについて実際、どう思っているのか取材をした。
 リチャードさん(53)は「民間医療保険に加入している者にとって、オバマケアは負担増だと感じる」と話した。
 ドナさん(54)は「オバマケアの考え方はとてもいいのだけれど、制度として皆が納得できるものにはなっていない」と表情を曇らせた。
 国民皆保険制度のある日本で育った私にとって、先進国アメリカでオバマケア実施後も大勢の無保険者がいるということが驚きであった。それなのになぜ、オバマケアの撤廃が議論されるのだろうか。
 共同通信ニューヨーク支局長の永田正敏さんは「アメリカ国民は私的な利益を優先しがちで、皆でお金を出して助け合おうとはしない傾向がある」とアメリカの国民意識について説明してくれた。
 取材を通して分かったことは、このような国民意識がオバマケアの議論の背景に根強くあることだ。「自分の人生は自分で開拓し守っていくもの」と考えるため、「皆で協力して医療や健康に関しても助け合う」という理念を持つオバマケアには違和感を抱いたり、反対したりしている人が多いということではないだろうか。しかし、アメリカ国民皆が健康で幸せに共存していくためには、私はアメリカの国民意識も変わってほしいと感じた。



「多様性に背向ける法案」

 「私に与えたまえ 疲れ果て 貧しさにあえぎ 自由に生きようとする群衆を…」。この詩の一節が台座に刻まれ、アメリカの象徴とも言える自由の女神像。ニューヨーク湾の対岸から遠望できるという今月3日の朝、現地の新聞の記事が目にとまった。
 合法移民を規制して10年で半減させる法案を、トランプ大統領と共和党議員が発表した。狙いは米国民の雇用確保という。私は詩との隔たりを感じ、街で声を聞いた。
 公務員のロバートさん(59)は1978年にエチオピアから移民としてアメリカに来た。「より良い生活を築こうとして来る移民を能力や英語力で制限するのは正当な考えではない」と指摘した。パナマ出身の両親を持つエリザベスさん(49)は「移民を受け入れ、多様な人々の異なる意見がつくり上げた現在の多文化社会こそ、アメリカのアイデンティティーだ」。英語力を問う規制には「相互理解に必要な言語は『人の心』にこそある」と力を込めた。  トランプ大統領は多様性や寛容さといったアメリカのアイデンティティーに背を向けているように感じた。

荻原 愛花  (松本蟻ケ崎高校3年・松本市)


「移民問題が抱えるジレンマ」

 「移民の国」といわれるアメリカで今、なぜ移民の制限が強化されようとしているのだろうか。取材した。
 自分たちも移民で現在、ニューヨークに住むポールさん(69)とロバートさん(75)は「きちんとした手続きをし、習慣や言語を学び、職に就き、納税をするという正しいやり方をすれば問題はない」と自身の経験を踏まえて語ってくれた。つまり、移民であってもアメリカ国民としての義務をしっかりと全うしていれば問題はないという考えだ。
 一方、国連職員の松枝研介さんからは「不法移民の増加で治安の悪化や雇用の圧迫など長期的な問題があるのは事実」という一つの背景も聞いた。不法移民の増加から考えると、移民制限が一概に悪いとは言いがたい部分もあるようだ。
 こういった移民問題について、全米日系市民協会の幹部のジョン・トベさん(56)は「アメリカの低賃金労働は移民が支えている傾向がある。移民がいなくなると、仕事が成り立たない場面が出てくる」と指摘した。共同通信の記者さんによると、不法移民の取り締まり強化で移民が減少し、カリフォルニア州の農家では労働力不足が深刻化しているという。また、トベさんは「不法移民の強制送還によって、親とアメリカで生まれた子が離ればなれになる問題も起こっている」と語った。
 私たちをガイドしてくれたサカモトさん(53)の話では、ニューヨークのタクシーの運転手は移民が多いという。移民なしでは社会が回っていかない状況があるようだ。
 取材を通して、移民問題についてさまざまな側面があることが分かった。この問題は多面的にとらえ、議論することが大切だと思った。



「社会と個人どちら優先」

 日本の国民皆保険のような制度がないアメリカでは、オバマ政権による医療保険制度改革(オバマケア)で多くの国民が保険に加入できるようになった。しかし最近、その廃止がトランプ大統領を中心に騒がれた。なぜなのか。オバマケアについて取材した。
 教師のロドニー・パークスさん(46)は「政策として十分ではないが、国民全体が保険を受けられる。オバマケアは必要」と語った。両親が共和党支持というキャサリン・ホールデンさん(17)は、家庭でもオバマケアが話題になるという。「自分たちが頑張って働いて保険料を払っているのに、一生懸命働かない人も同じ保険を受けられるのは不平等だ」と反対だった。
 議論の背景には、企業の負担増やこれまで保険料を払っていた人は額が高くなっただけという不満もあるようだ。さらに、多くの人が「アメリカの国民性に『自助努力』という考えがある」ことを口にした。アメリカ独立戦争以降に根付いた考えだそうだ。社会と個人の利益、そのどちらを優先させるか。非常に難しい問題だと感じた。 

赤羽 絢夏  (松本深志高校2年・安曇野市)


「幸せとは何か」

 私にとって幸せとは曖昧なものだった。皆、幸せになりたいとよく言うけれど、どうなったら幸せなのだろうと、ずっと疑問に思っていた。そこで経済大国であり、先駆的な考えを持っていそうなアメリカ人に幸せについて取材してみた。
 近くにいる人をつかまえて、幸せとは何かということについて質問した。人種、性別、年齢、出身地の違う多種多様な人々だった。しかし、みな一様に家族、それから健康だと言っていた。他には何もいらないのかと尋ねれば、いらないという。私は経済的豊かさを求める人が全くいなかったことにとても驚いた。
 一方で、幸せとは家族や健康であるとするなら、現状は矛盾している。アメリカでは家族との時間は減少傾向にあるようだ。しかも実はアメリカよりもハードな労働をしている国がある。日本だそうだ。
 共同通信の記者さんに聞くと、労働時間の短さはヨーロッパ、アメリカ、日本の順になるという。アメリカでも必要ならとことん残業してしまう人も少なくないという。日本は早急に労働条件を改善し、家族の時間を増やせるようにする必要があると感じた。
 また、大切な人の存在自体が幸せに感じることもある。9・11のトリビュート博物館で語り部のブレンダ・バークマンさんが多くの同僚や友人を亡くした米中枢同時テロ当時のことを涙ぐみながら話してくれた。そのとき、私は大切にしたい人がそばにいてくれることの尊さを知った。
 幸せとは家族といること。シンプルだがそれが私の答えだ。今まで以上に家族を大切にしていきたいと思った。



「ネット普及に良い面も」

 私は、インターネットの普及に悪い印象を持っていた。匿名の投稿などは誹謗(ひぼう)中傷につながりかねないし、1回発信した情報はほぼ消せない。しかし、アメリカでの取材を通して良い面を知ることができた。
 ツイッターなど会員制交流サイト(SNS)の広がりを、ニューヨーク在住のジャーメルさんは「とても良いこと。人々に発信する機会を与えた」と評価した。ほかにも「より簡単に自分の意見を表現できるようになった」と肯定的な意見が多かった。
 私は中傷やプライバシー侵害の被害などネットの危険性についても聞いた。大半の人は「危険を感じたことはない」と答えた。ただ、プライバシーは守られるべきという声も聞くことができた。
 共同通信の永田正敏ニューヨーク支局長は「発言の自由がない国もある。ネットで自由に発言できるのは、言論の自由につながる」と情報化の素晴らしい一面を教えてくれた。私は、個人情報など安全面に留意しつつ、意見や情報交換などでネットを活用していきたいと思った。 

山口 樹稀  (赤穂高校2年・南箕輪村)


「アメリカで垣間見えた『働くこと』」

 私は働くことについて、興味があった。派遣前学習会の取材体験から聞き続けた。「なぜ今の仕事をしているのか」。一つ、明確な答えが聞けたのは国連だった。私たちを案内してくれた職員の松浦梨菜さん(25)は中学生の時、世界各国の生活の格差を知ったことがきっかけだという。「私は日本で恵まれた環境で暮らしている。この感謝の気持ちをどう表そうかとずっと考えてきた」と話してくれた。
 アメリカの労働状況については共同通信社の記者の方々に話を聞くことができた。一つはアメリカ独自の労働文化があるということだ。ニューヨーク支局の記者さんによると、アメリカでは趣味やライフスタイルに合わせて仕事を選ぶのが普通で、転職を前提に働く人もいるという。例えば、アメリカの有力紙ニューヨークタイムズを目指す場合で考えると、初めは小さい会社、さらに転職して大きな会社と、腕を磨いていくという。このように、ステップアップのために転職する人も多く、雇用が非常に流動的であるといえる。
 このほか、産業の形態の変化もある。近年は工場などでの単純な作業がハイテク化して仕事の絶対数が減ってきている。また、グローバル企業が他国に工場を建て、安い労働力を使うことで、アメリカ人の仕事が減りつつある。その中で「アメリカファースト」を訴えたトランプ氏の政策が、労働者の心に強く感銘を与え、支持につながったのではないかとワシントン支局の記者さんは話してくれた。
 大学卒業かどうか、どのような仕事内容なのかなどを比べても、労働状況や収入に差はあるだろう。この差が親から子どもの世代にも広がれば、格差は広がり続けるのではないだろうか。



「日本と違う戦争の意識」

 国立航空宇宙博物館別館にはさまざまな飛行機が展示されている。戦争で使われた機体も数多い。第2次世界大戦で広島に原爆を落とした爆撃機「エノラ・ゲイ」もある。アメリカ人の戦争への意識を探ろうと、来館者に核兵器について考えを聞いた。
 父が空軍にいたという年配の男性と祖父が海兵隊だった26歳の男性に「核兵器は必要か」と問うと、2人とも「必要」と即答した。「核兵器はなくならないのか」の質問には、年配の男性が「そうとは思いたくない」と言ったのに対し、若者は「そう思う」と答え「核兵器がなくなっても、新しい兵器が出てくるだけ」と付け加えた。現実を肯定的に捉えているようだった。
 米国は第2次大戦後もベトナム戦争やイラク戦争などを経験している。戦争や軍事行動に対する市民の認識を共同通信の記者に聞くと、軍事行動の記事が新聞の1面に載ることは少なく、関心は低いという。ただ、戦争が始まると、大統領の支持率が跳ね上がるそうだ。72年間、戦争をしていない日本の意識とは、大きな差を感じた。 

石井 愛乃  (飯田高校2年・高森町)


「若者の政治への関心 教育も必要」

 18歳選挙権が施行されて1年、投票率が低い日本。どうしたら若者がもっと関心を持つようになるのか。政治に積極的なイメージのあるアメリカで、その背景を探った。
 ワシントンDCの10代の男性は家族や学校の友だち同士でも政治の話題になるという。「首都に住んでいるので、自分のまわりでは政治への関心は高いが、アメリカを全体的に見ると、そこまで興味はないのではないか」と語った。
 リンカーン記念堂で聞いた20代の女性は、政治に関心が低いというより、よく分からないという。「特にトランプ政権になってから、従来と違いすぎて混乱している。どうしたらいいのか判断がつかない」と話してくれた。
 また「あまりよくない状況」を話す人も。弁護士の50代の男性は「10代の興味がドラッグなど、別の刺激的なものに移っている」とした。このような側面もあるとすれば、私が出国前に行ったクラスメートへのアンケートにあった「関心がある人とない人の差が激しい」という二極化がアメリカの若者にもあるのかもしれない。
 共同通信ニューヨーク支局長の永田正敏氏によると「アメリカの若者の政治への意識は日本より断然高い」とのことだ。実際、アメリカでは学校の授業で、ディベート等で自分の意見を深めつつ政治を学ぶという。自然に政治に興味が持てるような環境があるということだ。
 日本では公民の授業で政治の仕組みを習うぐらい。現在の政治について議論したり意見を交わしたりする場は少ない。
 今、日本に求められているのは、若者に政治にもっと興味を持たせるような教育と、若者のための政策ではないだろうか。私たちも身近なことから世界までニュースに関心を持つ必要はあるだろう。「政治は難しい」、そのイメージを払拭できれば、今後日本の若者の政治に対する意識は変わっていくものだと思う。



「LGBTの制度整えて」

 LGBTは同性愛や性同一性障害などの性的少数者の頭文字を取った言葉だ。日本ではテレビや新聞で露出が増えている。世界の人たちにはどのような認識があるのだろうか。国連本部などで聞いた。
 ニューヨークに住む20代女性は「(心と体の性が異なる)トランスジェンダーが米軍から排除されようとしている。差別はなくならない」。レズビアンの娘がいるイスラエル人女性は「社会には同性愛者への差別、無理解がある」と嘆く。「娘は今、人が平等に生きられるように闘っている。娘を誇りに思う」と話した。
 ドイツ人の母娘は「私たちとは違う存在だが、全ての人は尊重されるべきだ」と話してくれた。同国では同性婚が認められているという。メキシコ人の男女のカップルは「人によって考え方に違いがあるのは当然。それを埋める努力が必要だ」と指摘した。
 日本でも、同性カップルを公的に認めるパートナーシップ制度が東京都の渋谷区、世田谷区などで始まっている。正しい理解を深め、制度を整えるべきではないだろうか。