一般社団法人 長野県新聞販売従業員共済厚生会

取材報告

水口 竜吉 (梓川中3年・松本市)


 「I don’t know(私には分からない)」。この言葉が響き、会場は沈黙した。ワシントンで私が「戦争を止めるために重要なことは」と、日系2世の元軍人テリー・シマ氏(91)に尋ねた時のことだ。
 テリー氏は太平洋戦争で米国が日系人でつくる「442連隊戦闘団」に加わった。米国内で当時、日系人は敵国の協力者として見られていたため、忠誠心を示す必要があった。連隊は戦争で成果を挙げたが、連隊の戦死者が多かった。日本の軍隊とも戦い、テリー氏と数名の日系2世の軍人たちは日本軍の捕虜となり、日系2世の1人は日本兵に銃を向けられた。
 日本兵は撃たずにこう尋ねた。「顔は日本人なのに、なぜ日本人と戦うのか」。日系2世は「アメリカ人と同じ所で生まれ、同じような生活をしてきたのだ。」と説明した。その後、その日本軍とテリー氏たちは一緒に缶詰などを食べたという。
 戦後は、日本のために日系人も汗を流した。この事に昭和天皇はとても感謝したという。これにテリー氏は、「日系人たちにとって、これはとてもうれしく感じた」と語った。敵だった日本人と日系人が、強くきずなで結ばれた瞬間だったのだ。
 今回の派遣で、さまざまな人にテリー氏へと同じ質問を聞いた。最も心に残ったのは、テリー氏の答えだ。戦争の重さ、戦争をなくすことはたやすくないことをあらためて強く感じた。
 テリー氏は「将来を担う世代が『自分たちに何ができるんだろう』と、自問してほしい」と私たちに希望を託した。自分の心に強く響いた。
 伝えてくれたことをしっかり受け止め、多くの人に伝えたい。そして、共に平和について考えていきたい。


 2001年9月11日、同時多発テロで破壊されたニューヨーク市のツインタワーは、「9.11記念碑」として2つの人工池になっている。池を取り囲む青銅板には犠牲者たちの名前が刻まれていた。その中には消防士として救助にむかい、命を落としたジョナサンという名前がある。
 今回ジョナサンの父である、リー・イエルピさんに私は会った。イエルピさんが中心に「9.11家族会」が運営されている、トリビュートWTCビジターセンターには、多くの犠牲者の写真などが展示されていた。
 イエルピさんは「写真は多くを伝える」と話し、写真の中のジョナサンも紹介した。イエルピさんの瞳が涙でにじんでいるように見えた。「私はテロで息子を殺された。しかし、このことを憎しむことはない。憎しみがテロを引き起こしたのだから」と続けた。
 そして、イエルピさんは「知識のなさや、洗脳により憎しみが生まれ、テロや戦争が起こる。アルカイダは、イスラム過激派の一部だが、イスラム教の人々をすべて、悪いと決めつけてはならない。われわれは区別していかなければならないのだ。地球に醜いものはない。中東は美しい国だ」と強く訴えかけた。テロとの戦いとして起きた、アフガニスタン紛争についても、「アフガニスタンへの攻撃を止めるべきだった」と話した。
 9.11でも罪のない多くの人々が犠牲になったが、この紛争でも同じことが起きてしまった。米国の学校では、9.11について全く教育されていないという。いまだにテロの真相は明らかにされていないのだ。負の連鎖を止めるためにも、イエルピさんのように私たち一人ひとりが、正しい知識を伝えていかなければならないだろう。記念碑に名前が刻まれている犠牲者、そして名前が刻まれていないアフガニスタン紛争の犠牲者が、安らかに眠れるよう、私は祈った。